2024.12.10──石投げ釣り

 石投げ釣りのシーズンの開幕が宣言され、各地から何名もの怒れる釣り人が湖へと集結した。

 石投げ釣りとは、吊り上げた獲物に石を投げつけて仕留めるという漁法であり、長年忘れ去られていたその秘伝を一人の怒れる釣り人が発見し、世に広めたことで一大ブームとなった。

 集まってくる怒れる釣り人は、魚を釣り上げることが最上目的ではない。彼らは石を投げつけたい。石を投げ、獲物にぶつけ、それで獲物の息の根を止めるために、今日この湖に来ているのだ。

 石投げ釣り開始の空砲が雄々しく鳴らされ、怒れる釣り人たちは銘々の釣り糸を湖へと放った。あとは獲物が掛かるのを待つ。ひたすら待つ。身を燃やし尽くさんばかりの怒りを押さえつけながらとにかく待つ。

 そして最初の一匹が上げられる。釣り上げた怒れる釣り人はおもむろに足元の石を鷲掴み、溜めに溜めていたその怒りを一投に込めて魚に石を投げつける。石は命中し、鱗が数枚あちこちに飛び散ると、魚はクタッと動きを止めた。それを見た怒れる釣り人は歓喜の咆哮を轟かせる。

 次々に新しい獲物が吊り上げられ、次々に怒りの投石が湖の上を飛び交っていく。大会が混戦状態になっていくと、怒れる釣り人たちの標的は己の釣った魚ばかりではなく、別の釣り人が引っ掛けた魚にまでも石を投じ始める。

 やがて、バケツに痛めつけられた魚が一杯になる頃、釣り終了のホイッスルが奏でられる。

 どの釣り人もあれほど続いた怒りは消沈し、談笑しながら各々の地元へと引き換えしていく。

 そして後に残った大会スタッフたちにより、湖に堆積した石の山と、釣り人の残した魚の死体が片付けられ、石投げ釣りは終幕するのである。

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