2024.12.07──雪舞

 地獄のような場所だった。

 豪雪が吹きすさぶ真冬の山中、敵機体の潜伏場所は分からず、補給路も断たれた中での戦闘。

 我々の小隊は二十機余りの戦力だったが、複数からなる敵部隊の奇襲を受け、戦闘が終結した時には私ともう一人だけしか残っておらず、その相方も機体のエンジン音が止むのと共に私の元から去った。

 ボロボロになった機体でそこから孤軍にて歩むこと数日、私も間もなく仲間たちと同じ運命を辿ろうとしている。

 ここまで私を生かしてくれた機体のエンジンが止まろうとしている。エンジンが止まり、暖房装置が停止すれば、この極寒の中一時間も生きれないだろう。エンジンを動かすための外圧装置がイカれたらしい。これを直す手段も材料も、今の私は持ち得ていない。

 雪がひどく降り続いている。こんな、この世の終わりのような場所で私の人生が終わるのかと思うと、堪らない恐怖心が沸いてきた。仲間たちはその最期の瞬間、どのような思いだったのだろう。


 ドン、ドン、カカッ。


 その時、不意に私の耳に妙な音が聴こえてきた。


 ドン、ドン、カカッ。


 それは太鼓の音のようで、果ての見えないこの空間の何に跳ね返っているのか、心地の良い反響を伴って連続して聴こえてきた。


 ドン、ドン、カカッ。

 ドン、ドン、カカッ。


 太鼓の音を半ば放心しながら聴いていた私だったが、目の前に「ありえないもの」が見え、途端に我に返った。

 それは、獣を模した被り物をした、一人の人間だった。

 脚のほとんどを雪に埋もれつつも、ピョン、ピョン、と軽快なリズムで、見たこともない躍りを披露している。

 そしてその躍りは、どこからともなく聴こえてくる太鼓のメロディーに合わせているのだ。


 ドン、ドン、カカッ。

 ピョン、ピョン。

 ドン、ドン、カカッ。

 ピョン、ピョン。


 聴覚と視覚、両方に与えられる異常な現象は、私の身体の中に一定のビートを刻み続けた。

 そしてそのビートは、私の乗る機体にも刻まれ始めた。

 ドン、ドン、カカッ。機体が揺れる。

 ピョン、ピョン。機体が震える。

 そして、沈黙しつつあった機体のエンジンが、そのビートによって再点火。激しい駆動音を発し、周囲の雪を解かした。


 家に帰れる。


 そう思った途端。私の目の前から、あの奇妙な舞い手は消えていて、そして鳴り続けていた太鼓の音も、二度と耳にすることはなかった。

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