2024.12.06──虚(うろ)
家の近くの寂れた公園の遊具に、蔦を巻いて繁殖している植物がある。
それはヘチマだ。もちろん自然のものではない。誰かが戯れに植えたのか、それともどっかの庭で栽培していたものの種が飛んできたのか知らないが、遊具(グルグル回るジャングルジムのようなやつ)に我が物顔で蔦を巻く姿を見るに、管理もされずに放っておかれていることが分かる。
籠に入れられた鳥のように、遊具の中には数本のヘチマが青々と実っている。管理する人間なしとなると、おそらくこれが最後の実になるのか……あるいは、地面に落ちた種が再び芽吹き、遊具をさらに浸食していくのだろうか。
俺はそんなことを考えながら、バスの時間に間に合うようそこを後にした。
その日は大変帰りが遅くなった。
残業だけならよくある話であるが、今日は自分のミスが起因となって、遅くまで残り対処に追われることになった。
普段はミスをしていないと強く言える程ではないが、社会に出て数年経ち、このような大きなしでかしをすると、胸にぽっかりと大きな穴が開いたような気持になる。
夜の家路は肌寒く、前方から吹き付ける風が、俺の胸の穴を通り抜けていく。
ふと、視界の中にあの寂れた公園が入り込んだ。最近はあまり眺める暇もなかったところだが、あのヘチマたちはどうなっただろうと思い立ち、公園の中に踏み込んだ。
季節も巡ってもうすっかり枯れ落ちてしまっただろう、という俺の予想は概ね当たった。遊具を浸食していた青々しい蔦は茶色く細くなり、殆どがちぎれて落ちていた。当然、ヘチマの実もそこには残っていなかった……そう思った矢先。
一個。たった一個だけ、ヘチマが遊具の中をぶら下がっていた。
そのヘチマは果肉がすっかり腐り落ち、繊維だけになったスカスカの状態だった。
夜の寒風がそのスカスカのヘチマの身体を素通り、俺の身体にぶつかってくる。
誰にも見られず、すっからかんの身体を寒空に晒す無様な姿が、なんだか他人ようには思えなかった。
俺は繊維だけのヘチマを慎重に蔦からちぎり取り、それを懐に入れて家までの道を歩いた。
身のないはずのヘチマから、不思議な暖かさを感じた。
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