Dec.

2024.12.01──朱肉

 これから訪れる町について、そこに品物を卸しに行く酒蔵の店主の話を聞くと、通称「足跡の町」と呼ばれているらしい。

 町の地面には、人、猫、犬、鳥、あらゆる獣の足跡、さらには荷馬車などの轍も、ハンコを押したようにクッキリと残っており、地元では有名な観光地とのことだ。

 安銭で旅をし、常に娯楽に飢えている身としては、町そのものに見所がある土地というのは何ともありがたい。私は浮き立つ気持ちで、足跡の町へと歩を進めた。

 だが、私の気持ちは早々に冷めることと相成った。

 町へと向かう道中、深い沼地が何キロも続いていたからだ。

 そこを進む装備などまったく用意してなかった私は、何度も足を取られては転んだり、深みに嵌っては何十分もかけて抜け出したりと、散々な思いをしてようやくそのエリアを抜け出した。

 今、私の目の前には、噂に違わぬ足跡だらけの奇妙な町の景色が広がってる。しかし、話を聞いていた時よりも、私の心はそこまで踊ることはなかった。

 町の人々の足は皆、あの沼地の赤褐色の泥がこびりついており、それが地面に、ハンコを押したような足跡を残しているのだ。今、足のみならずほぼ全身が泥にまみれた私が町に踏み込めば、そこに新しい観光資源が刻まれることだろう。

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