2024.11.30──食べかけのギフト㉙
「この兵器は、大地に移植し、成長させることにより、恒久的に敵地に打撃を与えることを目的としていた。核となるのは、果実の中央にある種子の部分だ。これが大気に触れると超高熱を発し、果肉、そして樹木は可燃性に優れた素材をしており、熱よって瞬く間に燃焼、周囲を焼き払う」
「……なるほど。ある程度の予測はしていたが、ハウスが燃えた理由がこれではっきりした」
開の説明を聞いていた清戯が呟いた。
「朝木氏が居なくなったことにより、放置された果実が腐るなり虫に食われるなどして種子が露出。そのまま果肉と樹木に引火してハウスが全焼してしまった、というわけか……むしろあの程度の被害で済んだのが幸いだね」
「この兵器は開発途中だったからな。実用化するにはまず、生育性を確かめる必要があった」
「その実験を、朝木氏にさせていたわけだな?」
開が頷き、清戯がふぅ、と息を吐く。
「和彌さんも嘆くことだろう。自宅の敷地内で父親が兵器開発をしていたと知れば。そして……」
清戯は開の顔を見ながら言った。
「それを依頼したのが、顔も知らない自分の母親だと知れば」
「……俺の依頼人は、朝木氏の植物学の才能を大層評価していた」開が手を組みながら言う。「曰く、あんな田舎に閉じ込めておくには勿体ないとね」
「だから、朝木氏と離縁したずっと後に、今回のプロジェクトのため彼を防衛省に呼びつけたわけだ」清戯は眉を吊り上げる。「そこでどのような話があったかは知らないが、幾度かの会合を重ねる内に朝木氏はプロジェクトを受け持ち、そして自宅のハウスで兵器の栽培を始めた」
「やはり朝木氏は天才だった。兵器は防衛省の計画よりもスムーズに進んだ。このままいけば三年後には実用化できると、そう思っていた矢先……」
「朝木氏が、兵器のことを暴露しようとした」
開が短く「そうだ」と答え、清戯は「きっかけは岸柿盛薫の件だ」と続けた。
「兵器の果肉は人体に有害な可燃物質であり、それを摂取した盛薫の顔は膨れ上がった。盛薫が果実を食べたのは彼本人の過失に過ぎないが、その時、朝木氏は思い知らされたのだろう……自身が育てる作物が、人を何人も殺めることになる事実を」
清戯は懐から、白い大型の封筒を取り出した。
「だから朝木氏は、計画を破綻させるべく、盛薫の食べ残した果実を俺に送ろうとしたんだ。その成分を調べさせ、兵器の全貌を公にするべく」
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