2024.11.25──食べかけのギフト㉕
「では、登場人物の背景も分かったところで、俺が突き止めた事件のあらましについてご説明しよう」
周りをぐるりと見回しながら清戯が言った。それに異を唱える者は居ない。
「農園を解雇されてから数年後、盛薫さんは再び果之浦町へ舞い戻ってきた。それはおそらく、金の無心のためか、朝木氏に何かしらの仕事を斡旋してもらうためだと俺は推測する。
他の家族や従業員と顔を合わせるのを避け、人の少ない時間帯に朝木氏を呼び出した(おそらく事前に電話なりメールなりをしていたのだろう)盛薫さんだったが、持ち掛けた話は朝木氏には受け入れられなかった。後がなくなった盛薫さんは、朝木氏を脅迫する手段を用いた。
朝木氏を押さえつけ、ハウスの中にある木にロープでぶら下げ、自分の要求を飲むよう追及した。そして朝木氏が断る度に、持参していたナイフで氏の身体を傷つけ、なおも追求した」
探偵の口から語られる残忍な手段に、節は嫌悪の表情で盛薫を見た。
「しかし朝木氏は厳格な性格。身体を傷つけられようと脅迫には乗らなかった。だが……今回はその性格が仇となった。何か所もナイフで切り付けられた朝木氏は、やがて出血多量で亡くなられた」
話を聞いていた穂香が手で顔を覆った。和彌が穂香を優しく抱き寄せる。
「盛薫さんは焦る。交渉に失敗しただけでなく、殺人まで犯してしまった。とにかく、出来るだけハウス内の自分の痕跡を無くし、早々にその場から脱出することにした。まだ他の家族が起きていない時間だったのが功を奏し、誰にも見つかることなく逃げおおせた。
では、なのに何故、盛薫さんは未だに果之浦町に留まっているのか? それは朝木家に、自分が疑われるであろう、重要な品が残っているのを思い出したからだ」
「それが横領の記録ノートね」
節の言葉に、清戯が頷く。
「元々そのノートを知っていたのか、あるいは交渉中に朝木氏から教えられたのかは分からないが、ノートが存在している限り、どこに逃げようといずれ自分に捜査の手が行くと考えた盛薫さんは、近くの山に潜伏し、朝木家に侵入できる隙を伺うことにした。
だが、思わぬ誤算があった。盛薫さんが潜伏地に選んだ場所は、自分の姪……すなわち穂香さんの娘、希稲ちゃんが秘密基地にしている場所だったのだ」
「そんな……」
和彌が顔を引き攣らせた。自分の父を殺した犯人と、娘が出会っていたと知り、身体中に怖気が走った。清戯の話は続く。
「もちろん盛薫さんが朝木氏を殺したなどと希稲ちゃんが思うはずがなく、伯父との久々の再開にさぞ喜んだことだろう。しかし盛薫さんとしては、自分がここに居ることを家族に話される訳にはいかない。なんとか彼女を言いくるめて、その山に潜伏し続けることが出来た。当然場所は変えただろうがね」
今までの話に、盛薫は一言も口を挟もうとはしない。ただ黙って椅子に腰かけ、瞬きもせず清戯を睨み続けている。
「だが……純粋な子供はいつまでも隠し事をできるものじゃない。希稲ちゃんは偶然出会った偉大な探偵に心を奪われ、その探偵を自分の秘密基地に招き、そこでうっかり探偵に教えてしまったのだ。伯父さんの存在を。
だから俺は希稲ちゃんに一働きしてもらうことにした。まず、希稲ちゃんを山に向かわせ、盛薫さんを呼んでもらった。きっと彼女の一声で慌てて出てきたことだろう。そして『お家で変なノートを見つけた』と盛薫さんに伝えてもらった。
盛薫さんはこれが最後のチャンスだと思ったはずだ。すぐに希稲ちゃんに、ノートを家の外に埋めるよう頼み込んだ。
家に帰ってきた希稲ちゃんに、俺は調査本部からちょろまかしたノートを手渡した。そして希稲ちゃんは裏口にノートを埋め……現代に至る、というわけさ」
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