2024.11.24──食べかけのギフト㉔
「……さて、まず調査本部に置いているはずのこのノートが、なぜこの家の裏口に埋められていたかをご説明しよう」
清戯がそのように話し出したのは、朝木家のリビングでであった。先ほど捕らえた岸柿盛薫を椅子に座らせ、清戯、節、磯辺と、和彌、穂香がぐるりと囲む形を取っている。
清戯は手に持ったノートをひらひらとかざしながら話を続ける。
「このノートがここにある理由は単純明快。俺が昼間調査本部からちょろまかしてきたからさ。おっとせっちゃんそんな顔しないでくれ。このノートが岸柿盛薫確保に大いに役立ったことは先刻承知のことだろう? ……そして、このノートを地面に埋めたのは、おそらく希稲ちゃんだ」
「希稲が!?」
和彌が声を上げると、清戯がクスリと微笑む。
「そう。だが決してイタズラのためにやったことではないから、寝ている彼女を起こしたり、後で𠮟りつけたりはしないでくださいね。じゃあどうして、希稲ちゃんはこれを埋めたのか? ……キミがそう指示したからだね、盛薫さん」
清戯がそう言って、全員の視線が盛薫の方へ向く。盛薫は何も返さず、黙って清戯を睨んでいる。
「なぜそのノートを?」
「お義兄さんと希稲がなぜそんな……」
磯辺と和彌の言葉を手で制し、「順を追ってご説明します」と清戯が話を再開した。
「まず盛薫さんのことについて……と、まあこれは俺よりも、お二方が詳しいと思うので、訂正があれば途中で言ってください」
清戯は和彌、穂香の方を見ながら言った。
「盛薫さんは、かつて朝木家の農園で働いていた従業員の一人かつ、朝木穂香……旧姓岸柿穂香さんの実のお兄さんである。合ってますね?」
狼狽えながら和彌が頷いた。
「穂香さんの実兄ということもあり、農園では結構な立場にあり、朝木氏とも深い付き合いだったとお見受けいたします……が、ある日を境に、突然農園を去ることになった。本当に急な話だったんじゃないですか? 和彌さん」
「は、はい……父からある日いきなり『盛薫さんは昨日限りだ』と告げられ、呆然としました……何のために辞められたのか、自主的だったのか、解雇だったのかも分からず……」
盛薫の表情を伺うように和彌は喋る。それを見た盛薫は気まずそうに顔を背けた。
かつては親しく話した義兄弟だったのだろうと、節は推察した。
「辞めた理由があったのだとしたら、それはきっと解雇でしょう」
家族の間柄も鑑みず探偵はずけずけと続ける。
「さて、ここで登場するのがこのノート」清戯は手に持ったノートを再び掲げた。「せっちゃんに磯辺くん。キミたちはこのノートを朝木氏の裏帳簿だと推測しているだろうが……実際はそんな大それたものでも、後ろめたいものでもない」
「違うの?」と言う節に「違うとも」と清戯が答え、全員に見えるようにパラパラとページを捲った。
「仮にこれが秘密のビニールハウスで育てられた高級フルーツの取引額だとしたら、あまりにも金額がしょっぱすぎる。記された金額の増減はたった五~三十万ぽっちで、高いリスクを伴って得る収益としては割に合わない」
「じゃ、じゃあそのノートはなんなんですか?」
磯辺の問いに清戯がニヤッと笑った。
「これは朝木農園の収益から引かれた、横領額の記録さ」
清戯の発言に「横領!?」と和彌が目を丸くした。
「そう……つまり、岸柿盛薫は横領を行ったため、農園をクビになったというわけだ」
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