2024.11.21──食べかけのギフト㉑

「……で、今更調査本部で何を調べてたのよ」

「いや、せっちゃん……それよりも……」

 清戯が声を潜めて、節の耳元に顔を寄せた。

「キミ、今夜時間取れないかい?」

「はぁ!?」

 節が声を上げると、清戯が人差し指を口に当てて「しっ」と言った。

「今夜、この事件が極めて重要な局面を迎えるかもしれないんだ……キミたちが行かないのであれば俺と助手だけでも動こうと思うが……やはり手錠を持った人間が同行した方がありがたい」

「……つまり、なに?」

 節も声を抑えながら言った。

「今夜の内に犯人が現れるから、それを捕まえに行こうと……あんたそう言ってるの?」

「そいつが『罠』にしっかり掛かってくれればだけどね」

 そう言ってクスリと笑う清戯を見て、節は腹立たしい気分になった。

 ああ、また先を越された。

 こっちは新しく入った情報の精査すら始めてないのに、こいつはもう真実に到達しやがったらしい。

 捜査が早く済めば良いというものでもない。今までも解決を焦るあまり、望み通りの結果に終わらなかった事件をいくつか見てきた。だがこうも、自分たちが足踏みをしている間に、スッと前方に突出する民間人を見てしまうと、普段あまり感じないような悔しさが沸騰してくるのだ。

 だが、警察は事件を楽しむ人間ではなく、終わらせる人間だ。

「……何人くらい必要なのよ」

 節が了承したと分かると、清戯は満足そうに頷いた。

「あまり大人数で動きたくない。キミと、そこの磯辺くんが居れば十分だ……さっきはああ言ったが、キミたちが来てくれるのであれば、助手は宿に帰しておこう」

「それがいいわね」

 そう返しながら、節は助手の方をチラッと見た。

 自分たちの会話も上の空で、ベースの手入れをしている彼女は、の世界の住人には見えない。荒事に巻き込まないのが吉だろう。それにしても彼女は、どういう腹積もりで清戯の助手(?)なんかをやっているのだろうか。

「よーし話は決まった!」清戯がパンと手を叩いて言った。「今夜の12時、朝木家の近くに集合だ。もちろん、誰にも見られないように身を隠しながら来てほしい。着いたら俺が合図をするまで、その場を動かないよう頼むよ」

 清戯は一方的にそう告げて、助手と共に立ち去って行った。

「あの……まったく話が見えてないんですが」

 二人の会話を黙って聞いていた磯辺がそう言うと、節は「私もよ」とため息を吐いた。

「ま……せいぜい作戦を成功させて、早く東京に帰らせてもらおうかしらね」

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