2024.11.19──食べかけのギフト⑲
「お義父様の最期の姿は今でも目に焼き付いております……この数日寝込んでいる間も、あの凄惨な光景を忘れたことは一時もありません」
和彌の妻、朝木穂香は、布団から上体を起こした格好で、節たちの聴取を受けていた。
顔は青ざめ、声も震え気味だが、その言葉には芯があり、何かしらの覚悟のようなものを感じさせる。
「お義父様を見つけてすぐは、動くことすら出来ませんでした。……ええ、お身体を木から降ろそうとも考えませんでした。薄情だと思われるかもしれませんが、もう既に手遅れだと、直観で分かりました。
その後は、和彌さんが警察の皆さんにお話しした通りとなります。一瞬正気を取り戻した私は和彌さんをハウスに呼び、事態を知った和彌さんは警察に通報し、また近くに住む従業員の方々に連絡をしに行きました。
私は部屋に戻り、少しだけ希稲の相手をした後、その後は布団に倒れ込んでしまい、今日までほとんど起きることも出来ませんでした」
「何やら、事件に関わる重要な話があると伺いましたが」
節が尋ねると、穂香は目をまっすぐ見据えて「はい」と答えた。
「まず、朝起きて、お義父様のハウスに向かう途中のことです。あのビニールハウスは外塀の近くにあることはご存じだと思いますが、あの時、塀の外を誰かが走り去っていくのを見た気がします……いえ、実際に外には誰かが居ました。今では確信を持って言えます。
歳は良く分かりませんが、おそらく女性だと思います。紺色か黒の服を着て、髪を後ろにまとめておりました。……なぜこんなはっきり特徴を言えるかと申しますと、実はもう一度見たのです。ハウスが燃えてしまう直前に。
事件後に寝込んでしまってからしばらくして、私は少しだけ元気を取り戻した瞬間がありました。私は部屋の空気を入れ替えようと、窓の近くに寄りました。その時に、あの女性の姿をもう一度見かけたのです。女性はまたしても家から離れるように走っておりました。さすがに二度目となると私もおかしいと感じて、その時に見た目を記憶したのです。まさか、お義父様のハウスが焼けてしまったとは思いも寄りませんでしたが……」
穂香はそこで言葉を止めた。節は聞いた話をメモに書き取り、また質問を行った。
「その女性に見覚えはありますか? ご近所や、雇っている従業員の方で似たような人は居ますか?」
「いいえ。あのような人は初めて見ました」穂香はきっぱりと答えた。「フォーマルな格好で、都会的な人です。最初に見た時は観光客だと思いました。おそらく外部の人だと思います」
なるほど、と言いながら節がメモを取っていると、「あの」と穂香が声を掛けた。
「素人の意見ですが……もしあの女性が犯人なのだとしたら、もうこの果之浦町には居ないと思うんです。お義父様を殺し、ハウスを焼いて証拠を隠滅したのなら、もうここに用はないはずだと……」
「穂香、もうこれぐらいにしとこう」
興奮気味に話す穂香を、近くにいた和彌がなだめ、再び布団に寝かしつけた。
節たちは二人にお辞儀をし、部屋を出ていった。
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