2024.11.16──食べかけのギフト⑯

 翌日。

 朝早く宿場を出た節と磯辺は、真っ直ぐに朝木家の方へと歩いていた。

「あの探偵、今日も来るんですかねぇ?」

「来るでしょうね。事件は解決してないんだから」

 節がそう言ったのと同時に、美しいベースラインが朝の静寂に響き渡った。「ほうら来た」

「おはようせっちゃん! 昨夜はよく寝られたかな?」

 そう言って手を振りながら近づいてくるのは、お馴染み黒衣の探偵である。こいつ、昨日から同じ服を着てるのか、それとも何着も黒衣を持ってきてるのかと節が考えている間に、清戯と助手(ちゃんと着替えている)が合流を果たした。

「なに? 今日は周りの家々を回らないの?」

 先の挨拶は無視して節が尋ねると「そっちの捜査は昨日済んだのでね」と清戯が答える。

「今日はキミたちと一緒に朝木家を見させてもらうことにするよ。昨日聞いた話で大体のことは掴んだつもりだが、俺自身で気になる部分をさらに押さえておきたくてね」

「まあ、別にいいけど邪魔だけは……っ、誰!?」

 突然、節が声を上げながら後ろを振り向いた。遅れて磯辺、清戯、助手が同じ方向を見る。

 しかし、真っ先に警戒を発した節は、瞬く間に脱力した。そこに立っていたのは、朝木希稲(5)だったからである。

「き、希稲ちゃん? なぜここに?」

 磯辺がぎこちなく笑いながら尋ねると、希稲は目を輝かせて言った。

「たんていさん! たんていさんがきてるってきいた! だからみにきた!」

 そう言って五歳児が指さすのは、ご存じ黒衣の探偵である。指名された清戯は満更でもなさそうに微笑みながら指を鳴らし、それに合わせて助手がテーマソングを激しく弾き鳴らした。「やめろ朝っぱらから!」

「警部補―! 海賀警部補―!」

 節が清戯に怒鳴ったのとほぼ同時に、遠くから節を呼ぶ声が聞こえた。それは初日に事件の説明を行っていた、現地の若い巡査だった。

「なに? どうしたの? ベースのことはこいつらに言及してよ」

「事件後からずっと伏せっていた朝木穂香が起きました!」

 それを聞いて、節と磯辺が顔を合わせる。

「何やら、事件に関わる重要な話があると言っております!」

「わかった、すぐ行くわ」

 そう言って節と磯辺がその場から駆け出した。

 だが、清戯と助手は動こうとしない。振り返った節に、清戯が「このファンガールの相手をしなきゃね」と言って、希稲の頭を撫でた。

 節はふんと鼻を鳴らし、そのまま朝木家の方へと走り去った。

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