2024.11.15──食べかけのギフト⑮

「朝木氏のご子息の和彌さんから話を聞いたわ。殺人が行われたと思われる日の夜は、朝木氏を除いた家族三人で同じ部屋で就寝しており、朝まで誰も部屋を出なかったそうよ」

 節の言葉に清戯が苦笑する。

「それじゃあアリバイにはならないな。家族間で口裏を合わせればいくらでも隠せる」

「もちろん、依然として和彌さん達も容疑者から外されていないわ。気の毒だけどね」

「和彌さん以外とはお話してないのかい?」

 清戯の質問に節が肩をすくめる。

「妻の穂香さんは事件後体調を悪くして寝込んでる。そして娘の希稲きいなちゃんは五歳よ。旦那さん以外と話せる?」

「奥さんはしょうがないとして、希稲ちゃんとはお話した方がいいんじゃないかな? 子供は案外よく見てるものだよ、大人が見落とすものを」

「だけど五歳の供述は証拠に出来ない。法律は大人が作ったものだからね」

 節は一度息を整え、再び話を再開した。

「あんたが言ってた例の果物、というか封筒だけどね」

「おや、聞いてくれたんだね」

 清戯は隣に座る助手に微笑み掛けたが、助手は顔も合わせずストローでジンジャーエールを吸っている。

「和彌さんは封筒の存在自体知らなかったそうよ。ただ、事件が起きる前の会話で『手紙』を書くようなことを話していたらしい」

「ほう! 手紙を?」

 清戯がズイッと顔を前に出した。

「一応それも念頭に入れて朝木氏の部屋を捜査してみたけど、それらしいものは見つからなかった……けれど、それよりももっと重要なものを見つけたわ」

 節はそう言って磯辺に目配せした。磯辺は頷いて、懐から一冊のノートを取り出した。

「読んでみて」

 言われた通り、清戯はノートを手に取ってパラパラと捲りだした。やがて、その顔が興奮に満ちていく。

「せっちゃん! これって……」

「そう、帳簿よ。おそらくは、あの燃えたハウスで育てていた作物の売り上げを記録したね」

 清戯はノートを入念に何度も捲っては内容を確かめていたが、やがてパタンと閉じて「素晴らしい!」と声を上げた。

「これは思わぬ吉報だったよせっちゃん。こいつと、先の話で出た件の従業員さえ見つかれば、事件はほとんど解決したもんだ」

「それだけじゃ足りないでしょ? まだまだ考えることは山積みよ」

 節はそう言って、グラスに溜まった氷の水を飲み込んだ。

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