2024.11.13──食べかけのギフト⑬
節たちはひとまず本日分の捜査を打ち切り、朝木家を後にして宿場に戻ることにした。
家から出る際、件のノートを持ち出す許可を和彌に申請し、了承を貰っている。和彌はノートの存在を知らないようで、落ち着かぬ表情で節たちを見送った。
外はすっかり陽が落ちていて、街灯の少ない真っ暗な田舎道を節たちは歩き出す。
「出遅れはしましたが、今日だけで色々進展がありましたね」
「ええ……」
そう答える節の顔は、先程部屋に居た時よりも若干元気が無かった。
事件の重要証拠になり得る物を見つけまではいい。だが、朝木氏が本当に外部の人間と秘密の取引をしていて、その取引相手が氏の殺人に関わっているのだとしたら……捜査範囲は果之浦町内からもっと広範囲になる。極論、氏の取引相手が分からない内は世界中が捜査範囲だ。
唯一見つかった手掛かりは今懐に入れているノートのみ。ここから朝木氏が誰と取引していたのか、何を取引していたのかを探り出さなくてはならない。果たして年内にこのヤマを越えられるのか、節は憂鬱な気分になった。
と、その時。美しい低音のベースラインが暗闇の静寂に鳴り響いた。
節たちが音のした方に顔を向けると、夜に溶け込みそうな黒衣の探偵が、その助手と共に佇んでいた。
「やあ、せっちゃん。ちょうどそっちの捜査も終わった頃だと思ってね」
「こんな田舎の夜中にベースを鳴らすな……」節がため息を吐いた。「で。あんたたちの探し物も済んだの?」
「いやいや、これが中々困難を極めてね」
と左程困った風でもなく清戯が言う。
「とりあえず、お互いに聞きたいことが山積みだろう。そこいらで夕飯がてら、情報交換といこうじゃないか」
「あんたが自分で食った分払うならね」
そのまま一同は、ささやかに賑わう町明かりの中へと消えていった。
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