2024.11.12──食べかけのギフト⑫

 朝木家はそれなりの大きさを誇る日本家屋だが、朝木彌一郎氏が使っていた自室は六畳一間のコンパクトな部屋で、そこに本棚や机、箪笥などが置かれ、見た目よりも狭い印象を覚えた。

 節はまず机を調べ始めた。書き残したものや、外部との何らかの取引の形跡が無いか、机を一つひとつ確認して開けていく。

 その間、磯辺は本棚を調べる。本を一冊取り出してはページをパラパラと捲り、全て見終わると棚に戻すという作業の繰り返し。本の間に何か挟まっていないかを確認しているのである。

「結構読書家だったんですかね被害者は。実用書に、小説に、図鑑、色々揃ってますよ……農業関係の本は全然ないですけど」

「あんたの部屋には警察関係の本がいっぱいあるの? 趣味まで仕事に染めてたらやってられないわ」

 節はそう言って机の最後の引き出しを締めた。朝木氏の机は整理整頓され、物が少なく見やすかったが、今回はそれがマイナスに働いている。事件に繋がりそうなものはまったく見当たらない。

 節は、朝木氏が書く予定だった「手紙」を気にしていた。それはおそらく、清戯の事務所に送られた果実封筒に一緒に封入する予定のものだったのだろう。しかし何かが起き(それは殺人かもしれない)、手紙は書かれなかったか紛失してしまった。そして手紙抜きの封筒のみが東京に送り出された。

 だから、どこかに書き残しの手紙のようなものがないかとこうして捜索しているのだが、あまりにも綺麗な机でため息すら出そうだ。もしかしたら手紙は既に犯人によって処分されてしまったのかもしれない。その内容さえ読めれば、朝木氏が清戯に何を頼みたかったのか、氏がどのような状況に陥っていたのか、果物の正体は何か、それらがスッキリ判明するだろうに。

「……む、カイさん!」

「『セツさん』。どうしたの?」

 磯辺が急に声を出したため、節は本棚の方へ寄った。磯辺は手に持った、少し埃の被ったものを節に見せる。

「これどう思います?」

「……書籍には見えないわね。古いノート?」

「中を見てください」

 そう言って、磯辺はページを一枚一枚ゆっくり捲りだした。その内容を見た節は、思わず声が出そうになった。

 ノートには数字が書かれていた。その書き方から、帳簿であることは明らかだった。

 帳簿に書かれている日付は不規則なものだったが、日を追う毎に記されている値段が上がっていってることが分かる。

「……朝木農園で使用している正式な帳簿はさっき見せてもらった。つまりこれは不正規のものになるわね」

「もしかしたら税務署案件になっていくかもしれませんが……おそらくこれが、朝木氏の秘密のハウスで育ててたものの取引の記録……!」

 節は捜査が急進展したことを実感し、心で拳を高々と掲げた。

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