2024.11.11──食べかけのギフト⑪

 清戯たちは四軒目の果物農家から話を聞き終わり、次の農家へと向かっていた。

 二軒目以降の農家からは、大体同じような話ばかりをされ、食べかけの果実の正体は未だ不明だったが、調査結果に清戯は満足していた。

「複数の家が同じ話をするというのは、それだけ情報に信憑性が高いということさ。ここら一体のお家がみんなグルじゃない限りはね」

 無口の助手に清戯は自信満々に話し掛ける。

「もっとも、さっきの家では新しい情報が手に入った。とても興味深い情報が。これから訪ねる家で似たような話が出れば事件も大いに進展しそうだが……っと」

 清戯の黒衣の中からスマホの着信音が鳴り響いた。当然清戯のテーマソングである。

 清戯はスマホを取り出し、画面に映る発信者の名前を見て微笑んだ。

「助手、思ったよりも早く賭けの結果が分かりそうだよ」

 清戯はそう言ってスマホを耳元に持っていった。助手は何も言わなかった。

「はい、こちら黒曜探偵事務所」

地方そとに居るんだろうが。都内こっちに居るなら直接訪ねてこい』

 電話越しからは気怠く、しかしどこか透き通った印象の声が聴こえた。

「いやいや、悪かったなぁ。ちょうどピクニックの途中で調べ物を思いついてしまってね」

『さぞ空気が上手いピクニックだろうな……排ガスにまみれて仕事をしてるこちらの身にもなってくれ』

「だけど掛け直したということは頼み事は果たした、そうだろ?」

 清戯がそう言うと、少しの間電話の向こうの声は止んだ。

『……言っておくが、お前の望み通りの結果じゃないぞ』

「ほう、俺の賭けは負けだと?」

『大負けだ。お前が言うようなは一件もない』

 その言葉を聞いて、清戯の眉がピクリと動いた。

「一件もない……確かか?」

『確かだ。今日中に終わらせなきゃならん依頼を五つ後回しにして調べたんだ。間違いない』

 清戯はしばらくの間黙っていた。電話の向こうの相手も、通話を切らず清戯の反応を待っているようだった。

 やがて、清戯はニカッと笑って会話を再開した。

「そうかそうか! ならいいんだ! おかげで捜査の道筋も見えて来たよ、ありがとう! 依頼料はこっちの銀行から振り込んでおくな!」

『はぁ~……探偵が探偵に捜査を依頼するなんて聞いたことねぇよ。まったく……』

 相手はまだ通話を切らず、一拍置いてから次のように続けた。

『……同業者として忠告しておくがな、黒曜。浪漫を追い求めるのは勝手だが、少しはまっとうな生活とやらにも目を向けるようになれ』

「いやいや、今一番売れっ子の探偵の言葉は重みが違いますな~! ……ならばこちらからも一つ言おう」

 清戯は先ほどまでの笑みをフッと消した。

「浪漫を完全に失くした探偵の目は、霞んで二度と謎を追えなくなる。お前の見ている世界の謎は、まだキラキラと輝いているか? 佐伯さえき

 電話の向こうではしばらく音が止んでいたが、やがて『借金だらけの世界よりはマシだ』という声と共に通話が切られた。

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