2024.11.10──食べかけのギフト⑩

 朝木氏の子息、朝木和彌かずやは、人当たりのよい顔をした男性である。

 少し痩せ気味の体格をしているが、頬のやつれ様は、おそらく体格のせいだけではないだろう。

「親父を最初に発見したのは家内です。今は寝室で寝込んでいます」

 和彌は力なく言った。妻の穂香ほのかは和彌の大学時代の同級生で、果之浦町の外部の人間である。

「親父は家族の誰よりも早起きで、いつも五時には起床して体操したり作物の様子を見たりしてました……最近は『あのハウス』に付きっきりでしたが。しかしあの日は六時になっても姿を見せず、心配した家内が親父を探して、それで……という感じです」

「前日のお父様の様子はどうでしたか?」

 ハウスのことが気になる節だが、ひとまずそれは後回しにした。

「いつもと特に変わらない感じでした……あ、いや。なんか手紙を書くだとか、そんなことを言ってたような……」

 手紙、という言葉に節の眉がピク、と動いた。

「手紙と言うのは、封筒に入れられてましたか? 他に梱包物はありましたか?」

「分かりません。ただ、手紙を書くんだとしか聞いてないので……なぜそんなことを?」

「実は私の知人が、つい最近果之浦町ここから送られてきた郵便物を受け取っているのですよ。その郵便物は、封筒に食べかけの果実のようなものを入れたものでした」

 節の説明に、和彌が困惑した表情を浮かべた。

「ますます分かりません。少なくとも私は、そのような封筒を見ておりません……そもそも親父が出すと言ったのは『手紙』で、別の何かを送るなんてことは一度も……」

「いえ、お気になさらず。知人から偶然その話を聞いたので、念のためお尋ねしただけです」

 その返答に和彌は納得がいってなさそうだったが、すぐに違う質問のやり取りを行い、封筒の件はそこで流れた。


「……色々とお話いただきありがとうございました。それではこの後、お父様の自室を調べさせていただきますが、よろしいですね?」

「ええ。前に来た刑事さんに言われて、事件の時から何にも触れておりません」

 それでは、と朝木氏の部屋へ向かおうとした節だったが、ふとあることが気になって立ち止まった。

「ところで、お答えしづらいかもですが……ご家族はお父様と奥様、そして娘さんとの四人家族と伺いましたが、お母様は今……?」

 その質問に和彌は苦笑した。その表情に悲壮感は無かった。

「物心付いた時にはもういませんでした。家に写真も残ってないので、どんな人だったのかも知りません」

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