2024.11.09──食べかけのギフト⑨

 清戯が初めに訪れたのは、朝木家にほど近い菊頼きくより農場だった。

 そこのオーナーである菊頼耕世こうせ氏は殺された朝木氏と同年配であり、最も付き合いの長い友人だったという。

「まあ確かに、(朝木)彌一郎は厳しい奴で、誰かを説教なんかしてるところも一度や二度ならず見たことがあったけど、それで恨まれたり敵を作ったりなんかはしてなかったよ。同居してる息子さん夫婦とも仲良くやってたし……」

 いささか気落ちした様子で話す菊頼氏に、清戯がいやいや菊頼さんと口を挟む。

「我々がお尋ねしたいのは朝木氏本人ではなく、氏が育てていた作物についてでして」

「……ああ、そうなのかい? 随分妙な調べ物をされますな」

 一瞬訝し気な視線を向ける菊頼氏だが、すぐに表情を変えて返答する。

「昔っから育ててたのは梨で、あとは葡萄、桃……息子さんの代からはハウス栽培で南国のフルーツにも手を出してたな。あそこは敷地が広いから」

 ハウス栽培、という言葉を聞いて、清戯はスマホの画面を菊頼氏に向けた。

「そのフルーツ類の中に、このようなものは育ててませんでしたか? ……ああいえ、食べかけの状態で恐縮なのですが」

 眼鏡を掛けてスマホの画面を注視する菊頼氏だったが、やがて残念そうに首を振った。

「これは彌一郎の農場のものじゃないですな。パッと見は梨のように見えたが、少なくとも私の知るフルーツじゃない」

 菊頼氏の返事に「そうですか」と残念そうな顔を浮かべて清戯が引き下がると、「ただ一つ」と菊頼氏が続けた。

「例の、彌一郎が見つかったハウスですが……あれが建てられるちょいと前、彌一郎は何度も外出してましたな。地主の家系で、今まで果之浦町からほとんど動いたことがない彌一郎が何度も何度も……」

 その情報を聞いて探偵が目を光らせた。

「生前、朝木氏から行き先や、誰と会っていたかを聞いたことは?」

「いいや、特に尋ねもしなかったから……ただ息子さん達からその話を聞いたことがないから、誰にも言ってないんじゃないかな」

 清戯は菊頼氏に礼を言い、助手と共に農場を後にした。

「思わぬ収穫だ。朝木氏がどこに行っていたのかは、切符の購入履歴を見れば分かるかもしれない」

 相変わらず返事をしない助手に清戯が微笑みかける。

「問題は誰に会っていたのか、だが……ここは一つ、ある予測に賭けて先手を打つとしよう」

 そう言うなり、清戯はスマホに番号を打ち込み、何処かに電話をし始めた。

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