2024.11.08──食べかけのギフト⑧
節たちと別れた清戯は、機嫌良く鼻歌を鳴らしていた。もちろん自身のテーマソングを。
「海賀警部補が居るというのは嬉しい誤算だ。こっちは目下興味のある捜査に集中して、つまらない方は彼女に任せてよさそうだよ、助手」
助手、とざっくばらんに呼ばれた金髪の少女は、返事も頷きもせずに、ただベースを背負って清戯の横をぴったりと歩いている。清戯も特に気にせず、そのまま独白のように言葉を繋ぐ。
「事務所に送られてきた封筒には、朝木氏の邸宅の住所が記載されていた。郵便局に居る知人にあの封筒のタイムラインを追ってもらったところ、封筒は三日前の明朝にこの果之浦町のポストから回収された、つまり遅くとも四日前にはポストに投函されていたことになる……だがこの投函されたタイミングが問題だ」
清戯がぴんと指を立てる。
「四日前、それは朝木氏の遺体が見つかった日に当たる(さっき外で盗み聞きした地元警察の説明が確かならね)。となると、朝木氏は封筒をポストに投函された直後に亡くなったのか? あるいは、朝木氏が殺害されている間か後に、家に居る別の家族が投函したのか? それとも朝木氏を騙る何者かが投函したのか? この分岐だけで随分と結末は変わってくる」
助手の少女が清戯の方を向いた。言葉も発さず無表情であったが、それを見た清戯は勝手にうんうんと頷いた。
「封筒が本当に朝木家から郵送されたのか確かめるには家族の話を聞くのが一番だし、部屋に残されている朝木氏の筆跡を調べれば、封筒に書かれた字が本人のものか否か分かるかもしれない。その通りだ。にも拘わらず、何故我々は朝木氏の邸宅からどんどん離れていっているのか? それは二つの理由がある」
清戯がぴんと指を二本立てた。
「一つは、封筒を投函したか否かは、海賀警部補たちの方で確認するだろうからだ。俺がさっき伝えた封筒と果物の情報を、彼女が無視しないわけはない。この情報は彼女から後でじっくり教えて貰えるだろう。
二つは、朝木氏亡き今、件の果物の情報をあの家で得ることはほとんど不可能という点だ。例の燃え尽きたビニールハウスが本当に朝木氏の秘密基地だったなら他の家族が詳細を知るわけがないし、仮に本当は知っていたとしても、警官に嘘を吐き我々に本当のことを説明してくれるという道理はない」
だからここは視点を変えるのさと清戯が微笑み、助手は無表情のままだ。
「果之浦町には七つの果物農家がある。まずはここを皮切りに、果物の正体を追ってみよう」
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