2024.11.06──食べかけのギフト⑥

 黒衣の探偵──黒曜清戯が指を鳴らすと、隣でベースを弾いていた金髪の少女がピタリと演奏を止めた。

「思えば長い付き合いだねぇ。こうして『テーマソング』を鳴らすだけで、俺が近づいていると分かるくらいには」

「自分のテーマソング作って毎回それを鳴らすような探偵他に見たことないわ……」

 ニコニコしながら近づいてくる清戯に、節は心底うんざりした顔を向けた。

「また随分と鼻が効くことね。好みの事件の臭いを嗅ぎ取って、東京からはるばる来たってわけ?」

「いや、それが事件について知ったのは今さっきでね。ここにはたまたま別件で来たのさ」

「はぁ?」清戯の返答に節は顔をしかめた。「じゃあ一体何しに来たのよ」

「まあちょっとした『物探し』と言うべきかな。正確に言えば物の正体を追っている感じだけれど」

 ふーん、と節は口を尖らせる。

「あんたにしては随分つまらなそうな依頼に当たってるわね……それで無関係の面白い(清戯比)事件に鉢合わせるんだから、運が良いことで」

「フフフ。いやぁ、それがあながち無関係でもなさそうでね」

 言ってることが分からず訝し気な視線を向ける節に、清戯は自身のスマホの画面を見せた。

「……なにこれ、果物の……芯?」

「先日うちの事務所に匿名で送られてきたものでね。今は訳あって紛失してしまったのだが、その前にこうして写真を残しておいたのさ」

「紛失? いやそれよりこの生ゴミがいったいなに……」

 そこまで言ったところで、節の目が大きく開いた。

「……まさか、朝木氏のビニールハウスで育ててた果物がこれだと言いたいの?」

 さすが、と言わんばかりに清戯がニヤッといやらしい笑みを浮かべた。

「現時点では断定できないが、こいつを封入していた封筒の宛先を追うと、この果之浦町まで辿り着いた。そして現地には、殺人被害者のみが知る秘密のビニールハウス……何かしらの繋がりを考えてしまうよねぇ」

 節は手を口に当てて、一度考えを巡らせてから返答した。

「……だとするなら、なんでその果物、しかも食べかけのものがあんたの所に送られたのよ?」

「それもこれから調べるところさ」

 清戯はそう言って、ベースの少女とともに踵を返した。

「ま、俺はこの果物を中心に調査するので、また少ししたら情報を照り合わせましょ。お互い良い仕事をね」

「あ! ちょっと! なんで果物紛失したのよあんた!」

「それは経歴に傷が付きそうなので秘密だ」

 そう言って手を頭上に挙げてヒラヒラさせながら清戯は去っていった。

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