2024.11.05──食べかけのギフト⑤
「も、も、燃え尽きたぁ!?」
思いもよらぬ情報に、節は席から立ちあがって叫んだ。
「放火って! 遺体発見から三時間も経ってたんでしょ!? 三時間!! あなたたち現場に監視も置かなかったの!?」
「申し訳ありませんっ!!」
節の剣幕に、巡査を含めた地元警官の全員が頭を下げた。この件に関して叱責を受けることをずっと身構えていたらしい。
「おっしゃる通り遺体が見つかってからは、三人の警察官によりずっとビニールハウスを見張っておりました……! その間警察官以外の誰もハウスには近づいてすらおりません……なのに! 三時間後、突如内部から出火し、掛かる事態に陥ったのです!」
「内部から急にって……! ……ああ、もう」
節は席に座り直し、はぁー、と大きく息を吐いた。
「監視している間は、警察以外の誰も近づかなかった……確かなのね?」
「神妙に誓って!」
神も呆れているだろう。
「……とりあえずハウスを監視してた三人には後で一人ずつ事情聴取、他時間内にハウスに近づいた人からも話を聞かせてもらうわ。この件の始末については後々考えます」
節はそう言って立ち上がり、磯辺と共に調査本部から退出した。
「……アレなことになりましたねセツさん」
「まったくよ」
一通りの調査を終えた節は、味方の怒涛の不始末にガックリと肩を落としていた。
不幸中の幸い、と言うよりは雀の涙という感じだが、ハウスから出火する前に朝木氏の遺体を別の場所に移していたため、被害者の状態はしっかりと確認することが出来た。
だがそれも、鋭利な刃物で傷つけられたこと、そして足首をロープで縛られていたこと等、先程の説明で知ったこと以上の情報はまったく手に入らなかった。
「あとは寝間着らしき服を着てたこと、くらいですかねぇ。寝起きだったんでしょう」
「返す返すもハウスの焼失は痛いわ」節が眉間にしわを寄せる。「あの状態じゃあ現場検証もままならないし、あそこで育てていた木の判別も不可能。こりゃ長い出張になりそう……」
「仮にその木が高級フルーツだとしたら、それを売って利益を得てたかもですよね。 隠し帳簿とか付けてませんかねぇ被害者」
「そこまで高望みは出来ないけど、いずれにせよ今は被害者の自宅周りを調べ……」
と、節が口にした時であった。
どこからともなく、風に乗って、一連のメロディーが周囲に響き渡った。
それは美しいベースラインで、ミステリアスかつどこか切なさを伴った曲である。
「なんでしょう? 地元の人が演奏会でもしてるんですかね? にしては音が近づいて来てるような……」
磯辺がそう言いながら節の顔を見て、ギョッとした。
節の顔が、先程の放火ショックの時よりも遥かに引き攣っていたのだ。
「──奇遇だねぇ、せっちゃん」
急に背後から声を掛けられ、磯辺が素早く振り向き、節はまるで油の切れたロボットのような動きでギ、ギ、ギと振り向いた。
そこには、時代錯誤な黒衣を纏った一人の男と、黙々と肩に下げたベースを弾き続けている金髪の少女の姿があった。
節が呻いた。
「~~~~黒曜清戯ぃ……!」
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