Nov.
2024.11.01──食べかけのギフト①
社会情勢の不安に付け込んで反映する職業を「反社会的」と言うのなら、自分が生業とする仕事もまた反社会的なのだろうと、私立探偵の
探偵とは事件を扱う仕事だ。事件とはすなわち、社会の不安によって生み出される産物であり、社会の不安が少なければ自ずと事件も減っていく、つまりは探偵の仕事も無くなるというわけである。
尤も、平和な世の中において事務所に持ち込まれる仕事もある……交際相手の素行調査や、家庭間のトラブル解決、小中学校の自由研究まで多種多様だ。しかし清戯は、それらの仕事を一度でも引き受けたことはない。清戯が請け負うのは、あくまで社会的に「事件」として扱われる、そんな内容の仕事のみ。
そのような選り好みしているため、清戯は探偵業で生活を賄えているとは言えない。実家の遺産を食いつぶし、さらには借金をして日々をなんとか過ごしている。清戯のそのような生活に、同業者の探偵が幾度となく忠告をしてきたこともあった。
しかし清戯から言わせれば、その知り合いの探偵こそ、探偵としての矜持は無いのかと説教をしてやりたいくらいなのだ。
奴は上記に挙げたつまらない案件をなんでもこなし、コツコツと働いて生活も安定している。社会人としては、それでいいだろう。しかしならば、何故わざわざ探偵などといく特殊な職業に就いたのか。奴の生い立ちや能力ならば、普通の会社員としても普通に暮らしていけるはずなのだ。
それでも探偵として身を立てているのは、「面白い」からではないのか? 仕事の面白さを求めることこそ、探偵の本懐じゃないのか?
清戯は常にその本懐を第一にしてきた。これを忘れた時、自分は探偵ではなくなるだろうし、そして生きてもいけないだろう。実家に迷惑を掛けようと、借金をしようと、これを曲げるわけにはいかないのだ。
退屈な時間を事務所の椅子にもたれながら瞑想して過ごしていると、玄関の開けっ放しのドアポストから、いくつかの郵便物がドサドサと落とされた。どうせほとんどが督促状だろうと思いつつ、やることも無いので清戯は重い腰を上げ、床から郵便物を拾った。
やはりほとんどは興味のないものだったが、その中の一つだけ、奇妙なものがあった。
白い大型の封筒。中には重みのありものが封入されており、中央が大きく膨らんでいる。明らかに、書類ではない何かが入っている。
先ほどまでのだらけた態度が嘘のように、清戯の目に好奇心の光が瞬いた。逸る気持ちを抑え、手袋をはめてから、封筒をゆっくりと開封した。
そこに入っていたのは、ほとんどが齧り取られて芯だけになった、食べかけの果実であった。
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