2024.10.29──道しるべ

 程ノ木和波が気まぐれに商店街の横の小さな道に足を踏み入れると、小さなビニールが道に点々と落ちているのを見つけた。

 どれもカラフルで、一つひとつ様々な模様やイラストが描かれており、手前のものを一つ拾ってよく見ると、和波は不思議な懐かしさを覚えた。

 ビニールは一つ、また一つと道の奥深くまで続いている。まるでヘンゼルとグレーテルのパンくずのようだなと思いつつ、和波はパンくずを食らう鳥のようにビニールを拾いながらその道を進んでいった。

 歩いていくこと十数分。拾ったビニールは和波の手元で山のように積まれている。そろそろ前が見えなくなりそうだと和波が危惧したところで、道の正面に建物のようなものが見えてきた。

 そこまでも丹念にビニールを拾って辿り着いてみれば、そこは随分と年期の入った駄菓子屋だった。店の奥まで駄菓子の陳列棚が、子供でも届く高さで並んでおり、特徴的だったのは、店頭に大量の飴玉がケースに積まれて売られていたことだ。

 飴玉は一つひとつビニールの包み紙で包装されており、和波は自分が拾ってきたものがその包み紙であることを理解した。

 なんだ、自分はわざわざゴミを拾いながらこんなところまで来たのかと和波が落胆していると、店の中から年配の女性店主が顔を出し「おやまあ」と言った。

「近くの子供達がね、お菓子の中身だけ食べて、箱とか紙とかは道に捨てちゃうのよ」

 飴玉をスコップのようなもので掬って袋に詰めながら店主が言った。

「私らが子どものときは、こういう絵の入った紙とかも好きで、いつまでも部屋に置きっぱなしにして親に怒られたりしたものだけどねぇ」

「なんだか俺も覚えがあります」

 和波は笑いながら、店主から飴玉の詰まった袋を受け取った。財布を取り出そうと鞄に触れると、店主は首を振った。

「お代はあなたが持ってきたもので十分よ。私は今でもこういうのが好きだから」

 店主はそう言って、和波の拾ってきた飴玉の包み紙の一つをパッと広げた。

 小さな男の子が飴を舐めながら、町中の小さな道を歩いているイラストが描かれていた。

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