2024.10.24──麦畑に魅せられて
秋の実りを迎えた麦畑をのんびり眺めていると、畑の一部分の麦が倒れていることに気付いた。
それも奇妙な倒れ方だ。もしやと思い、近くにある高台に上って畑を見ると、予感は的中した。
一面に実る黄金の麦のキャンバスに、不自然で人工的な円、線、見たこともない図形が、麦を倒すことで引かれている。所謂ミステリーサークルというものが出来上がっていた。
私は一瞬興奮するも、すぐにあまり宜しくない事態なのでは、と考え直す。ミステリーサークルとはUFOや宇宙人の手によって作られたものだというのが一般常識となっているが、実際は人がいくつかの道具を用いてこさえた、単なるイタズラだという説が有力だ。今目の前にあるサークルも人の手によるものだとしたら、この見事な麦畑に土足で踏み込んだ不届き者がいることになる。
他人の畑ながら頭に来た私は、最寄りの農協へと足を運んで、畑が荒らされている旨をそこの担当者へ伝えた。私が伝えるまでもなく既に現地で問題視されているかもしれないが、私自身誰かに訴えかけないと気が済まなかったのだ。
しかし、農協の担当者は「ああ、ミステリーサークルですか」と朗らかに笑いながら返答した。
「あの畑はですね、わざとあの形に倒れるよう調整しているんですよ」
意外な答えに私がポカンと口を開け、担当者は話を続ける。
「村おこしですよ。田んぼアートがあるでしょう、色の違う稲を植えて巨大な絵を作り出すやつ。あれと同じようなのをここらの麦でやろうという話が出ましてね。成長前の麦の一部に薬品を塗って、成熟したタイミングでポッキリと倒れるようにするんです。そうやって、人が入らなくてもミステリーサークルが出来るわけですな。強い品種なので、倒れた麦もちゃんと収穫できますよ」
話を聞いた私は、再び先程の高台に上り、件のミステリーサークルを眺めた。
近くには、他所から来ているであろう観光客がスマートフォンを片手に、ミステリーサークルを撮影してワイワイと盛り上がっている。
催しとしては成功しているのもしれないが、なんだかな、と私は欄干に肘を乗せて息を吐いた。
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