2024.10.23──秋のプール

 最近は秋の中旬くらいにまで夏の暑さが食い込む日も多いため、体育のプールの授業が間延びする学校もそれなりにあるだろう。とはいえ、我が校のように10月のこんな日和に冷水に浸かれなどと言われれば、学生にとっては堪ったものではない。

 しかし、あと一週間は続くはずだったプール授業が、今年は急遽中止となった。前述しておきながら今年こそは百メートル泳ぎ切ってみせるぞと意気込んでいた私は拍子抜けし、体育教師に理由を尋ねるも「プールが使えなくなった」としか言われず、詳しい事情は分からず仕舞いだった。

 それでも腑に落ちない私は、同様の考えを持つ数名と団結し、夜中にこっそりプールに忍び込んでみることにした。


 結構当日。我が校のプールは、複数の棟に分かれている校舎の一つの屋上にあり、守衛さんの目を避けてそこまで到達するには中々の苦労があった。それでもなんとか屋上に辿り着いた我々は、夜の静寂の中、不気味な存在感を放つプールサイドへとゆっくり歩み寄った。

 傍から見てもプールには何の異常も無さそうだったが、同志の一人が突然短い悲鳴を上げ、水面を指さした。

 その先を見た我々も、同様に声を上げて思わず口を覆った。プールの水面からは、真っ白な翼が何十本も、まるで畑に実る麦のように飛び出していたのだ。

 私はさらにその翼の先、水中を見た。そこには、髪の無い、裸の男女が体育座りをしながら、眠っているように沈んでいた。水面に飛び出している翼は、皆その男女の背中から生えているものだった。

 そこまで見たところで我々はその場から駆け出し、夜の校舎から一目散に逃走した。


 あれから数日。私は休み時間に再びあのプールサイドへと侵入を果たしたが、あの時プールに沈んでいた裸の天使は一人残らず消えていて、またプールに水も張っていなかった。

 体育の先生は、このプールに何を隠そうとしていたのだろう。屋上から見渡せる澄んだ秋空には、数羽の鳥が仲良く飛んでいた。

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