2024.10.22──長旅への褒美
美しい町に着いた。どの家もどの建物も、表面がツルツルとした光沢のあるクリスタルのような壁をしていて、町を区切る塀や外壁、石畳も皆、同様の素材で出来ているのだ。
この素材はこの辺りの鉱山で採れる石材なのか、あるいは人工的に作り出されたものなのか、いずれにしろタイルの一枚でもいただければ良い手土産になるだろうと、私は町の役場であろう大きい山のようなクリスタルの建物に入り、受付の人に話しかけた。
「ああ、これらの素材ですか。これは別に大したものじゃ……」
彼が素っ気なく返答している途中で、いきなり町中にカーンカーンという高い鐘の音が響き渡った。
突然のことに私が呆然としていると、受付の人が血相を変えて私の手を取り、そちらに引き寄せた。
「い、いったい何」
「静かにっ……! 奴が来ます……!」
奴とは何だと尋ねようとした、その時、ズンッ……という重苦しい音と共に建物が揺れた。
ズン、ズンと音は次第に近づいていき、私を含めた建物中の人間が息を殺していると、正面玄関の大きな窓を、巨大な魚のような目が覗き込んだ。
私はそれを見て悲鳴を上げそうになったが、受付の人が口を押えていたためそれは音にならずに済んだ。やがて強大な化け物の目が窓から遠ざかり、今度は変わって、ピンク色をした肉厚的な何かが窓にベッタリと付着した。それはまるで獣の舌のようであった。
「大丈夫です……室内に入っている限り、奴は建物の中まで襲っては来ません……」
訳知り顔の彼にあれは何だと尋ねると、彼は「奴は遠方より来る怪物です」と答えた。
「餌場を求めてか、繁殖のためかは分かりませんが、奴はここより遠くの生息地から、長距離をずっと歩いて来ます。その度に奴は汗を掻き、塩分を得るためその場の生物を捕食する行動を取るのです。なのでこうして、町中を岩塩で補強することで、奴の気を建物に向けて我々が食べられるのを防いでいるわけです……」
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