2024.10.15──夜半のバトンタッチ
夜風を浴びながら、最近地球に接近しているという箒星でも見られないかと空を眺めていると、バウッバウッという鳴き声が聴こえた。
視線を地上に移してみると、一人の女性が犬をリードに繋いで前方を歩いている。こんな夜中に犬の散歩をする人も居るのかと思っていると、別の方向からも一組、犬を連れた男性が歩いて来るのが見えた。
しばらくすると一組、また一組と次々に犬と人のペアが現れ、彼らは一堂にある場所に向かっているようだった。これは何か近くでイベントでも催しているのだろうかと、興味が沸いた私は天体観測を中止し、その一段の後をこっそりと付けてみた。
人犬の集団は、住宅地より少し離れた広い空き地に集まっていた。私が追跡していた十数組の集団以外に、空き地には二十組余りの人と犬が集結していた。
はて、こんな遊具もない殺風景な場所で一体何をするというのだろう。ドッグランをするにも随分と遅い時間だと思うが。
そんなことを考えていると、犬を連れて来た人達に、ちょっとした変化があった。
彼らは急にピタリと動きを止めたと思うと、途端身体がブルブルと震え始めた。
冷静に観察が出来ていたのはそこまでだった。突然、その人たちの肌から大量の毛が生えてきて、ついには服をも突き破り、全身が毛むくじゃらとなった。
そして、顔がグググググと変形していき、犬のような顔つきとなった。この時点で私は悲鳴を上げそうになったが、あることに気づき寸前で声は止まった。彼らの犬顔は、彼ら自身が連れて来た犬のそれとまったく同じだったのだ。
そしてさらなる変化が起きた。今度は犬達が二足で立ち上がり、ぐん、ぐんと身長が伸び始め、それと並行して体中の体毛がポロポロと抜け落ちた。そして犬達の顔が変形し、彼らをこの場所へと連れて来た飼い主そっくりの顔つきとなった。
気が付けば、毛むくじゃらの犬顔に変身していた人々の身体が、小さく、通常の犬のサイズにまで縮んでいた。そして空き地には、先程と同じように、人と、犬とのペアが集結していたのだ。中身がまったく入れ変わった、人と犬とが。
その夜の出来事から一週間も経たぬ内に、私はその町より遠方へと引っ越した。
いつも目にする近所の人が、果たして本当に近所の「人」なのか、信じることが出来なくなったからである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます