2024.10.13──夢詩売買

 夢を封じる箱「安眠シェルター」がネットのフリーマーケットに大量に出品されていて、それを残らず購入した。

 シェルターに封じた夢は大概「封じざるを得なかった夢」、つまりは悪夢なので、シェルターの使用後は有害ゴミとして処分することが推奨されている。その使用後のシェルターが、こうして誰にでも買える環境に多く売られているのは、睡眠学者の端くれとして由々しき事態だと思った。

 シェルターは全部で100を超えた。値は張ったが、すぐ政府とシェルターの製造会社に連絡を入れたのが功を奏し、殆どの費用は負担してもらえ、またフリーマーケットも厳重な監視が入り、新たなシェルターが売られる事態はなんとか避けることが出来た。

 さて、手元に残ったこの100余りのシェルター。他人の夢を暴くことは原則として禁止されているが、研究目的で許可さえ取れば、閲覧が可能である。

 気にはなっていた。世間を惑わす愉快犯的な動機でなければ、このシェルターは如何なる目的のため売りに出されたのか。それを確かめるには、これらを一つひとつ開封し、中身を確認する必要がある……これは政府に依頼されたわけではなく、私の学術的好奇心であるが。

 私は安眠ルームに入室し、運び込んだシェルターをフリーマーケットの出品日順に並べて、一個ずつ開封を始めた。

 そしてそれが、100個連ねて初めて完成する、めくるめく悪夢の大抒情詩であることを、私は数か月に渡る睡眠を持って思い知るのである。

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