2024.10.10──闇の草むらの住民

 そこは木々が密集した森の中に存在する、小さな草むら。

 枝葉が空中で複雑に絡まり合い、一年を通して、一切の日の光を遮断する。

 そこは闇に支配された場所だ。陽光がまったく入らないため植物の成長も弱く、色素の薄い弱弱しい草が、森の中にも関わらず芝のように短く、わずかに生えているだけ。

 必然、そこに暮らす虫達も闇の中に特化した身体になり、退化した目に、色素の薄い身体、発達した触覚など、同じ森の中に住む同種の虫と極端に異なった姿をしている。

 なぜ彼らは、そのような姿になってまで、闇しかないその草むらに居続けるのか? 森の中の競争に負けて辿り着いたのがここなのか? 元々暮らしていた場所が、木々の繁殖によって闇に包まれてしまったのか?

 いずれも違う。彼らは待ち続けているのだ。

 一年にたった一日、その闇の草むらに現れる、太陽よりも眩い光を。

 その草むらの奇妙な生態は、多くの研究者に広く知れ渡っている。

 故に調査に赴きたいと願う人達も居るのだが、草むらは隔絶された国の領内にあるため、調査が許されるのは、一年にたった一日のみだ。

 その一年のたった一日に、世界中の研究者たちが挙って闇の草むらに押し寄せる。

 彼らは各々、周囲を照らすための光源を手に草むらに訪れる。草むらに暮らす虫たちは、そこで放たれる冷たく、眩い光に、我も我もと近づいていく。

 まるで次の一年を暮らすための光を、その一日で蓄えるように。

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