2024.10.09──茶々入師

 苦節10年。俺はついに念願の「茶々入師」になることができた。

 茶々入師とはその名の通り、第三者同士が話しているところに割って入って、熱々のお茶を盛大に浴びせかけてやることが仕事である。特にくだらない話題で口論になっているところに需要があり、同業としては冷水師という人々も居る。

 茶々入師になるには様々な資格が入り用となる。例えば効き茶。匂いを嗅ぐだけで、その茶の銘柄を当て、口にすれば蒸らし時間や収穫日、生産地までも当てられるようにならなくてはならない。

 茶々入師が人に浴びせかけるのに使用している茶は、一種ではなく何種類かを掛け合わせた独自のブレンドでなくてはならない。その独特な茶の香りと風味が、イコールで茶々入師の名刺となるからである。この独自のブレンドを身に着けるためにも、上記の効き茶のスキルは必須となる。

 そしてお茶を入れるのに使う茶碗にも気を遣う。第一に手作りであること。第二に文化的価値が認められる出来であること。この条件を満たすために、茶々入師は高名な陶芸家に弟子入りをする必要があるのだ。俺も地元I県の有名な窯場に師事し、8年の月日をもってようやく免許皆伝となった。そしてそこで培った技術で見事な茶碗を焼き上げ、ようやく茶々入師としての仕事道具を手に入れたのである。

 このような苦労を経て、やっと赤の他人にお茶を浴びせかけることが出来るのだ。今、日本全国には20余名の茶々入師が居るとのこと。その数少ない名誉な職を預かる者としてこれからも誠心誠意人々に熱々の茶を浴びせアッッッツッゥ!! 何しやがる先輩!!

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