2024.10.07──アルコールスプレー信仰
信仰が神を作るとも言うが、科学の発達した昨今、人々が最も信じるものとは何か。
私がここ数年で最も信じていたのは、家の玄関に置いてあるアルコールのスプレーだった。あの疫病により都が侵され、人々の生活も自粛せざるを得なかった暗黒の数年間、私はこの玄関のアルコールスプレーをプッシュすることで心の安寧を図っていた。
そんな私の信心が届いたのか、あるいは不特定多数の人々が同時にアルコールスプレーを信仰したのか分からないが、今日、我が家のアルコールスプレーに奇跡が起きた。
透明なプラスチックの容器の中に満たされた、透明な液体の中を、透明な龍が泳いでいたのだ。
龍といえば水神を思い浮かべるが、アルコールも水としてのカウントに入ったのだろうか、などとくだらない思考に一瞬頭を使ってしまったが、容器の中におわす龍神様は、アルコールに浸かりながら何かを待たれている御様子だった。そこで私は思い出した。今日はまだスプレーをプッシュしていないのである。
私はいつもよりも気持ち丁寧に、アルコールスプレーをプッシュした。霧状のアルコールが手に掛かり、殺菌の潤いをもたらす。容器の中を泳ぐ龍神様も、その行動にどこか満足されている御様子だった。
以後、龍神様は時々容器の中に御姿を見せるようになった。元々この容器の中に居られたのか、それとも同じようにアルコールスプレーを崇拝する家の容器を順番に御回りになっているのかは分からないが、大体の場合、私が忙しかったり怠けたりしてアルコールスプレーを押すのを忘れたタイミングを見計らったかのように、龍神様は御姿を見せる。
疫病も終息の雰囲気を見せ、この信仰もいつまで続くか分からないが、私が不安で怯える内は、きっといつまでも力を御貸しになり、小さき外敵を打ち払われてくれることだろう。
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