Oct.
2024.10.01──枕木泥棒の不眠
台風などの影響で鉄道が一日中運休になった日は、枕木泥棒が現れる。
枕木泥棒は常に寝不足で、ゆったり眠れる最良の枕を探している。ある時、電車のレールの下に敷かれた枕木を盗んで頭を載せてみると、それが一番熟睡できる枕だと発見してしまい、以降全国の鉄道路線を回っては、お眼鏡に適った枕木を引き抜いていくのだ。
枕木は木製で、何十年も電車に圧されて引き締まったものが好みのようで、コンクリート製の枕木が主流になった都会の鉄道には現れず、決まって地方の古い鉄道駅で枕木泥棒は目撃される。
今日もローカル駅の隅っこに、特徴的な尖り帽子と穴が開いた黒いマントを着た男が現れる。台風の接近に伴って豪雨、暴風が蹂躙する中、枕木泥棒は意にも介さず線路沿いを這うように歩く。長い鼻を地面に当てながら、愛しの枕木を舐めるように選別していく。枕木を見つめる目はギラギラと見開き、その下には深い隈が刻まれている。
風雨に曝されること30分、ようやく満足のいく枕木を見つけたようで、枕木泥棒は安心した顔でそれを懐に仰々しく仕舞った。
さて帰ろうかと振り返ったとき、枕木泥棒は気づいた。この暴風雨の中、自分以外に歩いている者が存在する。それは小さな女の子で、線路脇の山沿いをヨチヨチと覚束なく歩いている。
その時、山がグラグラと揺れたかと思うと、大量の水を吸った斜面の土砂が崩れ始めた。それは女の子めがけて落ちていき、女の子は思わず目を瞑った。
だが、女の子が土砂崩れに巻き込まれることはなかった。枕木泥棒が間一髪飛び込み、先ほど手に入れた枕木を縦に置いて、土砂と自分と女の子との間に一瞬だけ隙間を作ったのだ。
その一瞬の内に枕木泥棒は女の子を抱えて脱出し、コンマ数秒遅れてから土砂が線路に流れ落ちた。その衝撃により、先ほど拾った枕木はポッキリと折れてしまった。
女の子は枕木泥棒にお礼を言ったが、枕木泥棒は、土砂に埋もれた線路の惨状を見て、盛大にため息を吐いたのだった。
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