2024.09.26──今から始める少年野球 中
少年に連れられた向柳は、監督らしき髭面サングラスの強面な男性の前に引っ立てられた。
「なんだ今崎……まだ見物人を連れてきたのか?」
監督はそう言って、今崎と呼ばれた少年をジロリと睨みつけた。近くに居る他の子供達がゲラゲラと笑う。どうやら常習犯のようだ。
続けて監督は向柳の方を見て、頭から足元まで視線を動かす。
「……背は低いが、中坊にしては仕上がった身体してるな」そりゃあ29歳なので……。「今までスポーツはしていたのか?」
「え、あ、はい、色々……」
向柳はただただ返事をすることしか出来なかった。今正体がバレると、ここにいる多くの子供達に嘲笑されるのは見え見えだ。
「ふん、まあ興味があるなら、今日は見学していくんだな。後で書類を渡すから、正式に入団したければ親の名前と一緒に書き込んで持ってこい」
「は、はい!」
ひとまず入団保留という形で向柳は解放された。向柳を連れてきた今崎少年は「よかったね!」と爽やかに笑って、練習へ戻っていった。
向柳はふぅ~と大きく息を吐いた。あまり拘束されずに済んで良かった。とりあえず様子を見ながら、適当なタイミングでお
向柳がそんなことを考えながら少年達の練習風景を見ていると、ふと、あることに気づいた。
他の少年がバッティングやノックを受けている中、件の今崎は、草の生えた外野の方で独り、黙々とボール拾いをしているのである。
「……あの」
気になった向柳は監督に尋ねた。
「なんだ? 質問は練習が終わってからにしてくれ」
構わず尋ねた。
「彼は、練習には加わらないんですか?」
「彼? ……今崎のことか?」監督がヘラッと笑みを浮かべた。「ああそうだ。あいつは補欠だからな」
「……補欠?」
「そうさ。去年入ってきたんだが、バッティングも守備も走りもダメ。練習に付いていけないからああしてボール拾いだけやらせてんだ」
「…………」
向柳大典。
かつて高校野球地区予選の決勝まで行ったことがある彼は、ここまで来てあることを確信した。
この監督──まるで見る目がない。
「……すいません、ちょっと彼と一緒にボール拾いしてもいいですか?」
「は? ……まあ、構わんが」
向柳は(制服と間違えられた)スーツの袖をまくり、グローブを借りて今崎の下へと走った。
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