2024.09.22──増える絡まる転がる

 西部劇ではお馴染みの、風に吹かれて転がっていく丸まった枯草、タンブルウィード。実際のアメリカ開拓時代にはタンブルウィードは無かったらしく、映画の撮影の際に除去が仕切れなかったものが、そのまま西部劇を象徴する代物になってしまったのは、なんとも皮肉な因果である。

 さて、ところ変わって私が今立っている場所は自宅マンションに併設している駐車場だ。買い物に行くためにその駐車場を抜ける近道を通ろうとしたところ、私の目の前をころころと何かが転がっていった。糸が何本も絡まって球状になった、まさしくタンブルウィードを髣髴ほうふつとさせるものだった。

 しかしここはアメリカではないし荒野でもない、植物がほとんど生えていない東京のアスファルトジャングルの一角だ。果たして何が糸状になってまとまるのかと、私は目の前の通過していったものの後を追いかけてみた。遠くの方でころころと風に押されて転がっている物体を見つけ、足を速めてそれに追いついた。

 近くでよく観察してみれば、それはゴミの結集した球だった。ビニールが細く裂かれたものや、空き缶などの軽い金属の破片が集まって、この転がる物体を作り出していたのだ。風情も文化的な価値もない正体に、私はがっかりした。しかし、仮に海に到達すれば対ウミガメへの強力な殺傷兵器となりかねないので、私は風が吹く前にそのゴミ玉を持参していた買い物袋に突っ込んだ。

 本物のタンブルウィードは今アメリカで大量発生をしており、現地に住む家の玄関を塞ぐなどして問題になっているそうだ。それは荒野にタンブルウィードの材料になる植物が大量発生したが故に起こったことだが、果たして、今日私が回収した鉄とビニールのタンブルウィードで、同じ現象が起きないと言い切れるだろうか。鉄とビニールの解れた球体が、人の生活圏に一斉に襲い掛かる日が、いつかやってくるのかもしれない。

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