2024.09.17──黒カビ迷路

 部屋の間取りか、日当たりが悪いせいか、私の部屋の壁紙は黒カビに浸食されている。

 毎年大掃除の日にアルコール等を用いて丁寧に拭き取っているのだが、二ヶ月もすればすっかり黒い模様が壁紙に写ってしまう。こんな部屋で寝泊まりしていると身体に悪い気がしてしょうがないが、安月給の私が交通の利便性に悩まされず暮らせるところは数少ないのだ。


 休みの日。何もやる気がせず、ぼんやりと壁紙のカビを眺めていると、ちょっとした発見があった。

 壁紙には格子状の凹凸があり、カビもそれに沿って繁殖するため格子状の模様を作りやすいのだが、私が見つめたその範囲は、所々線が途切れている部分があり、まるで迷路のような模様になっていたのだ。(死ぬほど暇な今の状態において)これは面白いと思った私は、その迷路を指でなぞり始めた。いざ迷宮に突入すると中は思ったよりも複雑で、湿気と菌類による自然物がよくもここまで骨のある道を生み出したものだと素直に感心する。


 彷徨うこと5分。私は迷路の入り口の反対方向付近まで辿り着いた。どこがゴールかと特に決めてはいなかったが、反対側から出口を見つければ、そこでこの遊びを一旦終わりにしようと思う。角を右に2回、左に3回曲がったところで、いよいよ何もない白い大地が私の人差し指の目の前に現れた。指先は素早く壁紙の上を滑り、黒き迷路から勢いよく飛び出した──

 と、思った矢先、指は目の前の黒い壁に衝突した。見てみると、迷路はまだまだ先に広がっていた。おかしいな、確かにもう道の切れ目が見えていたはずなのだが。私は渋々と迷路攻略を続けることにした。


 あれからどれだけ時間が経っただろう。もう幾度となく出口らしきものを見つけ、そこから脱出を試みたが、その都度目の前には壁が現れ、私の指は未だに迷路の虜となっている。

 黒カビによる奇怪な迷宮に覆われた部屋の中で、焦点の合わない目をしながら、私は今日も迷路を進み続けている。

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