2024.09.15──短冊と風船
大切な相手に伝えたい言葉というものは、どうしてその人が生きている間に伝えることが出来ないのか。
病気、もしくは老衰に関わらない人の死は、いつだって唐突で、自身の生活の一部か大部分を壊していく。いくらそのような予感を前からもってしていたのだとしても、友の死、身内の死は時が経つにつれて大きなものとなっていき、いつしか心は後悔につつまれる。なぜあの人が元気な内に、もっと話をしてやれなかったのだろう。
もしあの世があるのだとして、その世界へ言葉だけでも送れるシステムが存在すれば、どれ程うれしいだろう。朝、目が覚め、薄明りの太陽をカーテン越しに浴びた際、ふと、先立たれた人物を思い出す。今の自分がその人に伝えたい言葉がふっと浮かんでくる。すると、窓の外に、何やらフワフワと浮いているものを見つける。
窓を開けると、一本の短冊が目の前に浮かんでいる。短冊は糸で結ばれていて、糸の先には白い風船が付いている。徐にその短冊を手に取り、今朝思い出した人物への短いメッセージを短冊に書き込む。最期まで看取ることが出来ず申し訳ありませんでした。最後に会った時もっとお話をすればよかったです。貴方との日々は今でも自分の中の大切な時間です。
言葉を書き切り、短冊を離すと、白い風船は天井へと浮かんでいき、短冊を空の彼方へと運んでいく。そしてそのメッセージは、やがて自分が想う人物の手へ渡る。
そのメッセージの返事を聴けるタイミングは、何時になるかは分からない。早ければその日の夜の夢の中で聞けるかもしれない。だがしかし、いずれは己も白い風船につかまり、その人の居るところへ直接話を聞きにいけることだろう。
そしてその時までに、持っていく手土産をうんと蓄えておくことが何よりの孝行になると、私は信じたいのである。
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