2024.09.14──財布の種

 コンビニでアイスクリームの会計をした際、財布を開けようとしたら、小銭入れの所から緑色の若芽がぴょっと顔を出しているのに気付き、思わず声を上げそうになった。

 店員に気取られることなくアイスの購入に成功した私だが、財布に突如生えてきたこの植物にドのような理由を付けるか、非常に頭を悩ませた。

 ひとまず家に帰りアイスを冷凍庫に仕舞うと、私はその植物について調べた。すると、梅の木の若芽と非常に似ていることが分かった。その新事実に、私はあることを思い出した。

 我が家でずっと続いている風習で、正月の初めの日に、お茶に入れた梅干しを食べきってその種を財布に入れておくと、お金が貯まるというものがある。私は今年もそれを実行したのだが、この若芽はその梅干しの種から発芽したのではないだろうか。

 塩漬けにした種から芽が出るなど信じ難いことではあるが、他に理由も思い付かなかった。目下気になるのは、この芽吹いた芽が、今後どのように成長していくのか、という点だ。今の状態なら用意に持ち運びは出来ようが、実際の梅の木のサイズにまでなるのなら静観はしてられない。

 私は若芽を上手い具合に引っこ抜けないか試したが、革製の財布に強く根を張っているようで、びくともしない。

 となると、この財布は諦めて新しい財布を買うという選択肢が出てくるが、金運上昇のために入れた梅干しの種が仇で余計な散財をするのは、いかんともしがたい抵抗感がある。

 結局私は、今でもその若芽がぴょいと出ている財布を使い続けている。あの頃から目に見えた成長はしていないようだが、この先どうなることやら。

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