2024.09.13──影と光の鍔迫り合い

「面白いもん見せてやるよ」

 同級生の鉈島がそう言って、奴の実家にある古い倉庫に俺を案内した。

 倉庫に入る俺達二人。背後の方で重い錠が下ろされる音が聴こえる。鉈島が鍵を掛けているのだろう。

「面白いのってなんだ~?」俺がそう言って振り向くと「これさァア────ッッ!!!」と鉈島が黒い刀を振り下ろしてきた。俺は鞄にいつも入れている紺碧の小刀を取り出し、鉈島の黒刀を受け止める。倉庫内にガギィン! と金属音が鳴り響いた。

「ちぃ! これも止めるかつまんねぇ奴っ!」

「不意打ちをしたいんならもっと自然なやり方で誘うんだな……ところで」

 小刀に力を込め、鉈島の黒刀を払いのける。鉈島は跳躍して、倉庫の奥の方へ下がった。

「まさかお前も【冥刀】を手にしていたとはな……いつからだ? どこで手に入れた?」

「先週だよォ、鋸溝」そう言って鉈島が黒刀をべろぉと舐めた。「ひぃ爺ちゃんが昔『我が家には妖刀がある』って言ってたのを思い出してなぁ……当時はキョーミなくてよく聞いてなかったけど、お前にやられた後すぐ家に戻ってあちこち探し回ったのさ……そして見つけたのがこいつだァ!」

 鉈島が黒刀を横一線に振るった。すると、倉庫の中の影がうねうねと動き出し、その一つが刃となって襲い掛かってきた。

 それも小刀でいなそうと思ったが、寸でのところで刀を止め、横に転がって影の刃を躱した。

 制服に切れ目が入り、皮膚もわずかばかり切れた。つぅ、と血が一筋流れる。

「防がず躱した、のは正解だぜ鋸溝」鉈島がニタリと笑う。「俺の【影絵巻】が作り出す刃は、刃の方からは物体に触れられるが、物体からは決して刃には触れられない! 一方的な攻撃が出来るってスンポーよ!」

「そんなことだろうと思った。お前の性格にピッタリな刀だな」

「余裕なフリするのはよせよォ、鋸溝」

 鉈島が切っ先を向ける。

「お前の刀……【土蛍】は刀のくせにビームを発射するキッショイ武器だが、その光線によって作られる影からも、俺は刃を作り出せる……つまりお前が攻撃をした瞬間! お前の首を掻っ切れるというわけだ。お前の刀じゃ俺には勝てねーんだよ鋸溝ォオ!!」

「喝、と目と口を開いて勝利を宣言する鉈島の顔は、蜥蜴や蛇のような爬虫類を思わせた。」

「セリフ!! 地の文がセリフで聴こえてんぞゴラァ!」

「勘違いしているようだが」俺は小刀を天井に向けるように構えた。「【土蛍】はビームを撃つ刀じゃない。こいつの能力は『光を操る』ことで、ビームは攻撃に用いている手段の一つに過ぎない」

 俺の丁寧な説明を鉈島がハッと一笑に付す。

「だからなんだ。お前の能力が光である限り、そこから生じる影が俺の武器になることに変わりはねぇ」

「俺が言いたいのはだな」

 小刀を握る力を強める。

「【土蛍】の光量を舐めるな──ってこと」

 瞬間。小刀の短い刃が激しく光った。

 それは軍隊で使われる閃光弾よりもさらに強力なもので、倉庫の内部全体が明かりに包まれ、影の一切は消滅する。

「なっ……」

 絶句する鉈島。その一瞬を見逃してやるほど俺はお人好しじゃない。

 奴が黒刀を振るうより早く間合いを詰め、首を小刀で一閃し、大好きな影の世界へと叩き込んでやった。

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