2024.09.12──雨のち晴れ、カタツムリは常に

 例年よりも長雨の日が続いたためか、高層ビルの立ち並ぶ都心部に、大型のカタツムリが大量発生した。

 目にも鮮やかな蒼い殻を持ち、軟体部は白色という今まで発見されたことのない変わり種で、こいつらは決まってビルのガラス面に張り付いているところを目撃され、地上に植えてあるわずかばかりの街路樹や低木には一匹も寄り付かないのだ。そこかしこのビルの壁に、この蒼く白いカタツムリが何十、何百匹もくっ付いているものだから、発見当初はちょっとしたパニックをもたらしていた。

 最初の方は駆除も検討に入れられていたが、ガラス面に張り付いているが別にガラスを齧っているわけではないこと、他のカタツムリと違い、這った後に粘液のようなものを残さないこと等が判明し、放っても害はないとして、膨大な数のカタツムリ達は大都市の新たな住人として受け入れられた。

 昼間、PCでの仕事に明け暮れて疲れた目を癒そうと窓の方を見やると、このカタツムリが数十匹這いまわっているのが見える。今でも研究が進められているが、彼らは一体どこから来たのだろう。空のような殻に、雲のような軟体を持つ彼らは、空の化身のようにも見える。

 不思議なことに、彼らの死骸は今まで一匹も見つかったことがなく、その総数も出現時よりまったく変化していないという報告もある。彼らは生と死を超越した、そこに確かにいるはずなのに、実体のない存在なのだ。

 彼らのようなものが、何故即物的な都会の町中に現れたのか。僕達に何か大切なことを思い出させるため? 間もなくやってくる裁きの時を警告するため? 人々の様々な思惑に関係なく、カタツムリ達は不変の気象現象のように、今日もビルのガラス面を這いまわっている。

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