2024.09.11──甘夏特急

 机に置いているフルーツ籠から甘夏を一個掴み取ると、どこからともなく列車の走るガタンゴトンという音が聴こえてきた。

 私の住んでいる家は駅から遠く、部屋の中ではテレビもラジオもPCも点けていない。一体この音はどこから? と思いつつ甘夏の厚皮に親指を差し込み、ゆっくりと剥き始める。するとどうだろう。厚皮の裂け目が大きくなるに連れ、列車のガタンゴトンという音はどんどん大きくなるのだ。

 私は一度皮を剥くのを止め、持っている甘夏に耳を当ててみた。ガタンゴトン、ガタンゴトンと絶えず音が鳴り続けている。これの発信源は甘夏の中にあるとみて間違いない。私は逡巡しながらも意を決し、甘夏の厚皮を最後まで思い切り剥いた。

 甘夏の内側から外の世界へ、十両編成の列車が高速で飛び出した。煌びやかな車体を部屋の電球に反射させながら、列車は颯爽と玄関の方まで駆け抜けていき、扉を開けることなくその場で溶けるように消えていった。

 残された甘夏の内部の果肉には傷も轍の跡もなく、私は全ての皮を剥き切って、一房を摘まんで口に入れた。爽やかな酸味と甘みが口内を突き抜けた。

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