2024.09.09──魅惑の素材

 インテリアデザイナーとして今まで多くの家具を見てきた里糠兀資だが、フラッと立ち寄った古家具店に置かれていたものは、記憶にあるどの家具ともまったく異なる代物だった。

 どれも色鮮やかで、金属のような光沢を持つ美しい家具だが、持ってみると紙のように軽い。家具を構成する各パーツは既存の図形とは異なる奇妙な形で、まるで抽象画を見ているような心地にさせる。

 この家具を作ったのは誰かと兀資が店員に問いただしたところ、さる家具職人が売れ残りを預けてきたとのことで、今その人物は南米奥地のジャングルで暮らしているのだという。

 まさに、今考案中の部屋に最適な家具だと確信した兀資は、その職人に出会うべく南米へと飛んだ。現地ガイドを雇い、ジャングルの中を探検すること三日、兀資はようやく目的の家具職人の家に着くことが出来た。

 そこは大木の幹に枝や葉っぱ、泥などを駆使して作られた家で、あの美しい家具を作った人間が住むには随分粗末なものだと思った。呼び鈴も扉もない玄関から声を掛けると、職人は快く兀資を迎えてくれた。部屋の中には、あの古家具屋で見かけた家具の、作りかけのものが置いてあった。やはりそれも鮮やかな色合いの金属光沢を放ち、美しい。どうやら職人は本物のようで、兀資は安心した。

 ちょうど今こいつの材料を調達に行くのですよ、と職人が言い、是非に是非にと兀資は職人と共にジャングルの奥へ向かった。道らしい道も消え、無秩序に繁る木々によって太陽光が覆われるこのような辺境に、あんな素晴らしい家具の材料があるのか。

 しばらく歩いたところで、職人が「しっ」と声を抑えるジェスチャーをした。職人の目は樹上に何かを捉えているようだが、兀資からは何も見えない。職人は背負ってきた大きなリュックから何かを取り出し、それを見て兀資は仰天した。中から出てきたのはボウガンだったのだ。

 職人が息を殺し、ゆっくりと狙いを定め、矢を放った。遠くの方でドサリ、ガサリ、と重い何かが落下する音が聞こえた。職人は兀資に待っているように言い、音のした方へとゆっくり近づいていった。

 しばらくして、職人が何かを手に持って戻ってきた。いやー上手くいきましたと朗らかな笑顔を浮かべている。だが、兀資は笑うことなど出来ず、むしろ顔面蒼白となった。

 職人の手元で、美しい金属光沢をした巨大な甲虫が、ワシワシと手足を動かしていた。

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