2024.09.07──ランチタイム

 休憩所で昼飯を食べ終わり、持ってきた本に目を通した時のことだ。

「あれ……? なんだこのページ……」

 開いたページに書かれている文字が、所々抜け落ちていることに気づいた。落丁本である。

 さらにページを開いていくと落丁はひどくなっていき、ついには全ての文字が消えた白紙のページのみが続くようになってしまった。

「ひどいなこりゃ! 中古で買った文庫本だけど、ちゃんと中身を確認して売ってくれればいいのに……」

 文句を垂れつつ落丁本からブックカバーを外し、昨日かったばかりの新品の本に付け直して、それを読み始めた。


 異常に気付いたのは翌日になってからだ。昼休み、上記の本をまた読み出したところ、再び落丁を見つけたのだ。その本もページを捲るごとに落丁が増えていき、ついには白紙になっている。

「馬鹿な……今週出たばかりの新刊だぞ? それに……」

 私は本の後ろ側の真っ白になったページをペラペラと捲る。

「この辺りには『あとがき』が書かれていて、確かに買ったその日にその部分を読んだ。昨日まではまだ文字が残っていたはずなんだ」

 考えれば考えるほど混乱が募る一方だったが、私の頭の中にある一つの仮説が浮かんだ。

 私はその新品の落丁本をブックカバーに包んだまま、鞄の中に慎重に仕舞った。


 さらに翌日の昼休み。私は鞄から本を取り出して、そのページを捲った。

 思った通りだった。本の落丁はさらにひどくなり、昨日普通に読めていたページでさえ、白紙に変わっていた。

 原理は不明だが、原因は明らかだ。この本に付けたブックカバーである。

 最初に読んでいた古本の落丁も、このブックカバーによってもたらされたことだったのだ。私は急いで本からカバーを外し、その裏側をジッと見つめた。

 思わず声が漏れそうになった。

 ブックカバーの裏側は漆黒の闇になっていて、その縁には白く小さな歯が、ビッシリと並んでいる。そして漆黒の空間の中に赤く肉厚な舌が見え、その上にいくつもの文字が貼り付いている。

 舌はべろりとブックカバーの内部で一回転し、その上に乗せていた文字を、漆黒の空間の中へと飲み込んでいった。

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