2024.09.03──救世ワックス
撥水性に優れたワックスが開発され、世の中は一大ダイビングブームが押し寄せた。
このワックスを塗った場所は水を弾くのみならず、表面に厚さ数センチの空気の層を生み出すため、酸素ボンベ無しに水中で呼吸をすることが可能になるのだ。効果の持続時間は約2時間。多くの海水浴場にこのワックスの発売所が置かれ、人々は挙って購入し、ダイビングを楽しんだ。
洪水の際の人命救助にも役に立つとされ、国もこのワックスの流通に後押しをし、さらには海外にまでそのマーケティングの場を広げていった。3年も経てば、ほとんどの家に最低1個はこのワックスが置かれるようになった。
それから半年も経たない時であった。世界中で、未曽有の大雨が連日降り注いだのは。
世界中の大陸のほとんどが水に沈み、残されたのは高層ビルや山などのわずかな高地のみであった。
しかし、当初の予想よりも多くの人間が生き残った。大雨の前に、例のワックスが広く流通していたからである。
ワックスの在庫は大量にあり、人々は毎日これを塗りながら、水浸しになった地球で暮らし始めた。時が経つに連れて、水中で自由に行動が出来る建造物が建てられ、人類は滅亡の危機を間一髪で乗り越えた。
第16水域にある、大雨以前に建てられた高層ビルの最上階。そこは例のワックスを作った製造会社の元オフィスであり、その部屋の中で一人の壮年男性が、一枚の紙に目を通していた。
そこには数多くの細かい文章が書かれており、その一番上に大きく「箱舟の膏計画」と記されていた。
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