2024.09.02──モコモコの消失

 部屋の隅に置いてあるモコモコスリッパ。

 冬場のデスクワークにて、兎角足元が冷え込み仕方がなく導入した温暖武装だが、予想以上の効果を発揮してくれた。冬場は一日中、足をこのモコモコスリッパに入れていたものだ。

 だが夏場は足を突っ込んでいたら熱中症になるため、このように部屋の隅に追いやっている。夏の間は仕舞っておけという声が聴こえてくるが、狭き我が部屋の収納はもう一杯一杯なのである。出していても特に問題のないものは一年中出しっぱなしというのが我が国の法だ。

 だが放っておけばそれ相応のリスクを負うことにもなる……先日から戦友モコスリの様子がおかしくなった。夏場は湿気などでモコモコではなくペッタンコになっていたスリッパが、今日見てみるとふっくらと膨らんでいるではないか。

 訝しんだ私はそのスリッパに触れようとし、その直前で悟って後退りした。大いなる絶望と後悔が胸中に響き渡り、その場で崩れ落ちた。スリッパに付いているフワフワの正体はカビだ!

 たしかにここ数日台風の接近で取り分け湿度が上がっていたが……まさかこんなあっけなく別れの時が来るなんて、思いもしなかった。こんなことになるくらいだったら、熱中症覚悟で一日くらい存分に履き潰してやるんだった。

 悲しみに暮れた私は、カビに覆われたスリッパをそのままにして、布団に潜り込んで夢想に耽った。頭の中にモコスリとの冬の思い出が浮かんでは消え、頬を一筋の涙が伝った。

 翌日、布団から出た私は恐る恐るカビスリの様子を確認した。だが意外なことが起こった。昨日あれだけフワフワのカビに覆われていたスリッパが、今朝見ると以前のようにペッタンコになっていたのだ。

 慎重に手に取ってみても、スリッパにカビの痕跡は一切残っていない。スリッパの思わぬ復活に喜ぶ私だったが、昨日見たカビの行方が気になって仕方がなかった。あれが慢性的な寝不足による幻覚でなければ、いったカビは何処へ……?

 その時、私の背後でにわかに気配があった。息を抑え、音を立てないように慎重に、素早く振り向いた。


 にゃあ。


 どうやら今年の冬は、足元だけでなく膝上も暖かくなりそうだ。

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