Sep.

2024.09.01──8月32日

 今年の夏休みに出来た思わぬロスタイム……それが9月1日の今日の日曜日だ。

 本来夏休みと言えば8月の末日をもって終わるものだが、奇しくも9月の初日に日曜日がぶつかったため、一日分お休みが増えたのである。

 長期休みと新学期の間に生じたエアポケットのような一日。僕はそんな日に、住宅街の中を一人で歩いている。

 昼まで残っていた宿題と格闘していたこともあり、出歩いて少ししたらもう日が傾いて夕方になろうとしている。橙色の陽光に照らされる9月1日の町並みは、どこか異界めいた、不思議な印象を覚えた。まるで夏と秋との間に新たな季節が生まれ、その季節の中を歩いているような、そんな心地だ。

 前方より長い影がこちらに向かってきた。顔を上げると、クラスメイトの武弘が、自転車チャリを手で押しながら歩いていた。

「よう武弘。なにしてるんだ?」

自転車こいつで隣町まで行こうとしたんだけど、パンクしちまったんだよ」

 見てみると、なるほど後輪のタイヤがつぶれてペシャンコになっている。僕はケラケラと笑った。

「なんだなんだ、休みが一日増えたからってテンション上がっちまったか? 普段は家でゲームばっかしてるのに」

「別にいいだろ、今日くらい。今日が最後の休みなんだから」

 どうやらこいつも、僕と同じような動機で家から出てきたらしい。

 僕と武弘は並んで歩いた。お互い今年の夏に起きたことを話しながら、夕日に照らされる街を家に向かって進んでいく。

 僕の家の前まで来たとき、僕はふと気づいた。そういえば武弘の家は反対方向じゃないか。僕はそう言って武弘の居る方へ振り向いた。

 そこに武弘は居なかった。あいつの持っていた自転車ごと、そこから姿を消していた。

 僕が呆気に取られていると、突然玄関の扉が開いて、母さんが血相を変えて飛び出してきた。僕に気づくと、急に僕のことを抱きしめて、耳元でこう言った。

「落ち着いて、落ち着いて聞いて……さっき武弘君が……自転車に乗っている時に、道路に出て……」

 母さんの言葉は最後まで聴こえなかった。僕は、さっきまで武弘と一緒に歩いていた坂道を見ていた。その坂の上で、自転車を持った武弘が寂しそうに笑っている。

 武弘は自転車にまたがって坂の向こうへ行き、それっきり見えなくなった。

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