2024.08.30──箱の虜

 大学にある古い倉庫を掃除していた時のことだ。

 この大学は明治の頃から続く由緒ある学校で、構内には当時建設された古い建物もいくつか残っており、私が担当する倉庫もその一つだ。古いとは言ってもほぼ毎日交代で誰かが掃除や整理を欠かさず行ってきたこともあり、漆喰の壁はまるで姫路城のように美しい白色をしていて、壁や柱に使われている木材も経年劣化を感じさせない頼りがいのある姿を残している。

 しかし私がこの倉庫で何よりも好きなのは、中に保管されている膨大な資料群だ。倉庫内部に均等に並べられた背の高い棚に、隙間が出来ないほど多くの資料が詰まっている様は実に壮観だ。これからここを整理すると思うと人によれば眩暈を起こすかもしれないが、私にとっては宝探しのようでじつにワクワクさせるのだ。PCのモニターを前にレポートをカタカタと書き込むことよりずっと楽しい。

 もちろん、古過ぎたり重要過ぎたりする資料は教授の許可なしには触れられないが、学生が扱える資料でもかなりの歴史的価値があると私は思う。今まで見た中で一番良かったものは大正時代に集められた植物標本をまとめたものだったが、果たして今日はどんなものにお目にかかれるのか……。

 そんなことを考えながら棚を見上げていると、足に何かがぶつかった。慌てて下を見ると、そこには大きな木箱が置いてあった。

 はて、こんな箱、今まで置いてあっただろうか? 教授が取り出した資料を一つにまとめたのだろうか? しかしそれにしては随分古い箱のようで、もう何年も人に触れられていないといった風情だ。毎日交代で誰かが倉庫に入っているというに、そんなことがあり得るのか?

 見たところ、学生が触れてはいけない注意書きのようなものはない。私はしっかりと手袋をし、その古い木箱の蓋に手を掛けた。

「うっ……」

 私は開いた蓋を慌てて閉じた。とんでもないものが入っていたのだ。それは時間が経って黒ずんだ……人の骨だったのだ。それも全身が丸々と入っていて、服のようなボロ衣さえ纏っていた。

 こうなってしまえば学生一人の手に負えることではない。私は急ぎ教授と他の先生方にこれを報告し、すぐに警察が呼ばれて然るべき調査がなされた。

 彼(彼女)はいったい何者だろう? いつの時代からあの箱の中、あの倉庫の中に仕舞われていたのだろうか。不謹慎ながらその結果を期待して待っていたのだが、それを教えられることはなかった。遺体はあの箱ごと何処かへと回収され、教授には「他言無用」と釘を刺される始末だった。

 しかしやっぱり、この倉庫はすごいものだ。国の重要文化財だけではなく、未知の白骨死体(黒ずんでたけど)まで見つかるのだから。私はさらに身を入れて、この倉庫の整理に取り組んでいこうと思った。

 棚を見上げていた私の足に何かがぶつかった。

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