2024.08.29──一閃! 苔むす刃が悪を斬るっ!

 苔に覆われた居住区コロニーに、一人の若い男が現れた。

 見慣れない服装、余所者である。長い間歩き通しであったのか全身がボロボロだが、何よりも目を引いたのは、男が背中にさも大切な財産のように担いでいる奇妙な長物だ。それはまるで金属のハンガーを分解して剣の形に仕立てた、子供のおもちゃのような代物である。

 男が水の出なくなった噴水の跡地で憩っていると、近くの深い苔の中から瞬く間にならず者十数名が現れた。男の所持する一切を命ごと奪うのが目的である。

 自分の周りに居る人間が皆凶器を手にしているのを確認した男は、例のハンガーソードを手に持ち、ならず者達に切っ先を向けた。途端、場は十数名の嘲笑によって賑やかな空気と相成る。この外からのお客さんスピーシーズ、どうやら俺たちと遊んでくれるみたいだぜ。これは丁重にお迎えしてやんないとなあ。

 ならず者数人が、各々の凶器を手に男に飛び掛かる。瞬間、男がそのハンガーソードを真横に振るった。その行動により、盛り上がった場の空気が一気に白けることとなる。

 男に飛び掛かった連中は1/2ハーフアンドハーフとなって、苔むした地面にボトボトボトリとリズムカルに落下した。その惨劇を見たならず者の一人が、男のハンガーソードを指さして叫ぶ。おい! あいつの武器何かおかしくなってるぜ!

 男の持つハンガーソードの表面には、いつの間にか深い苔でビッシリと覆われていた。苔にしては所々が鋭く尖っている、見たこともない外来種スピーシーズ。結果的にならず者達が知ることはないのだが、これは切鉄苔という金属に寄生する特殊な苔で、ハンガーソードの柄にはこいつらが休眠できるスペースがあり、男が刺激を与えることで目覚め増殖し、鉄よりも強靭な刃を作り出すのだ。

 解説が終わる頃には、ならず者たちは一人残らず1/2ハーフアンドハーフになって地面に転がった。一丁上がり! 男は再びハンガーソードを担ぐと、荷物を持って居住区コロニーの奥へと歩き出して行った。

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