2024.08.21──橇
全面凍結……地球の地表面が全て凍り付いてから、およそ20年。
しぶとくも生き残った人類は、凍った地球上で新たな文明基盤を築いた。防寒機能に優れた衣類や建設物が多く開発され、氷点下でも健やかに育つ植物や家畜の品種改良も進んだ。
当面の問題は、エネルギー資源だった。暖房に多くのソリースを割く必要があるため、それ以外でのエネルギーの使用は大きく制限された。地上から自動車や電車は姿を消し、凍った地表を素早く滑走する
橇を滑らすには手動で漕ぐことも大事だが、何より効率よく坂道を利用することが大事だ。橇が開発されるのと並行して道路には多くの人工的な坂が作られ、地球上の道はどこもかしこも坂だらけの並み立った状態になった。
海面にも分厚い氷が張られているため、船は無くなりここでも橇が使われるようになった。大きな環境変動を超え、人類は橇中心の橇社会を築き上げたのである。
その内、橇に対して宗教的な信心も生まれた。橇を使って空を飛び回るサンタクロースは偉大な英霊として崇め奉られ、犬橇の犬は神獣として珍重されるようになった。
各国をまとめる政府と同等か、それ以上の力を橇のメーカーが握り始めた。橇会社に勤める人間は特権階級扱いされ、莫大な資産をもって私兵を呼び集める企業も現れた。
こうした企業を危険視した政府は、橇に乗った特殊警察組織を設立し、企業の制圧に乗り出した。それに対抗する私兵達は違法な改造を施した橇を乗り回し、警察達を翻弄した。
こうして凍った世界の人々の営みは、どこに行き着くか分からない危険な滑り出しを見せたのである。
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