2024.08.17──大伯父から継いだ家
田舎に住む高齢の大伯父が亡くなったことにより、彼らが住んでいた田舎の家を、眩岸素李は引き継ぐこととなった。
尤も、素李は都会のマンションで暮らし、働いている身のため、家は近い内に誰かに売るか、解体をするつもりだ。ひとまず家の状態を調べるために、素李は休暇を取って田舎へと赴いた。
大伯父には親戚の集いで会ったことはあったが、彼の家に訪れるのはこれが初めてだ。一代で財を成した方である一方、奇特な人物として地元では有名な人らしく、大伯父の奥方も彼の性格に付いてこれなくなり、別れたそうだ。
果たして家の内装はどのようになっているのか、とそれなりの覚悟を持って家に赴いた素李だったが、まず外装を見て何もかもの予定が崩れ去った。
それは最早「家」とは呼べなかった。
私有地である山の、露出した岩肌に大きな横穴を掘り、そこに家財道具の一切を置いている……つまりは穴居住宅なのだ。素李は愕然とした。令和のこのご時世に穴居住宅を受け継いだのか、私は? 大伯父は昭和の人間だが、だとしても時代錯誤過ぎる。彼の奥方の気持ちが痛いほど身に染みた。
こうなると人に売る、という選択肢は捨てるべきだろう。だが、解体も通常の解体業者に任せられるものではない。何か、今の形で利用法を考えていく必要がある。
素李は実際に穴居住宅に入り、中の家具などを見聞した。山の中のちょっとした洞窟であるにしてはあまり湿気がなく、空間の半数程を、古い本棚が埋めている。
少し珍しい書籍があったため、素李は近くの椅子に腰かけてそれに目を通した。穴居住宅は外から涼しい風が入り、意外にも落ち着いた気持ちで読書をすることが出来た。
少なくとも、大伯父は好き好んで、この家で暮らしていたらしい。確かに奇特には違いないが、こうして涼風に当たって古書に目を通していると、素李はなんだかこの洞窟を手放すのが惜しいような気持ちになるのだった。
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