2024.08.16──この世界のどこかでペットボトルを海に投げる男の目的

 赤道直下の無人島に漂着して早一ヶ月。

 水源や食料の確保が安定化し、一日の大半を通りがかる(通りがかった事など無いが)船の観測に費やす俺には、ある趣味が出来た。

 それは、ボトルメールを海に放つことである。

 ボトル、と言ってもガラス瓶のような上等なものではなく、ラベルの剥がれたペットボトルなのだが。この島の海岸には漂着物が多く、特にペットボトルを始めとしたプラスチックゴミが山積みとなっている。ウミガメの個体数が減るわけだ。

 ともかく、俺はこの海洋環境汚染の最前線にいる立場を大いに利用してきた。ペットボトルは床に敷けばそれなりのクッション材となるし、切って(ナイフは石を割って作成した)屋根にすれば雨を防げる。それでも余るペットボトルの山に、俺は文化的な目的を見出した。

 それが一日一つのボトルメール作成だ。島で採ってきた大き目の葉っぱに、木の枝で傷を付けることで文字を書き、それをペットボトルに詰めて海に投げるのである。

 葉っぱに書く内容は俺の名前だとか、乗っていた船の名前(忘れた)だとか、この島の所在(知らん)などではない。俺は葉っぱにたった一文の詩を書きこむ。一日一つの詩を葉っぱに認め、それをペットボトルに預けて、海原へ解放するのだ。

 その詩が誰かの手に渡るかは分からない。渡ったところで、それが俺の書いた詩だと分かる奴も居ない。しかし、この広い世界のどこかで、俺の書いた詩が、俺の生み出した創作物が確かに存在し続けている。その事実を噛み締めるだけで、俺はたった独りでもこの島で生き続けられる気がしてくるのだ。

 さあ、今日も新しい詩を認めた。これを読む人間はどんな奴なのか。俺の知っている人なのか、見知らぬ誰かなのか、知らない奴なら可愛い娘がいいなと思いながら、俺は葉っぱを詰めたペットボトルを海に投げた。

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