2024.08.09──蜻蛉捕り
クラスメイトの健は綺麗な蜻蛉玉を持っている。
まるで宇宙の銀河をガラスの中に閉じ込めたような蜻蛉玉で、健はそれをランドセルに得意気にぶら下げ、いつも皆に自慢している。曰く、健の爺さんの形見の品なのだそうだ。
俺はこの蜻蛉玉が欲しくなった。家にあるどんな宝石よりも綺麗な蜻蛉玉を。だから健に譲ってくれるよう言ったのだが、俺が何万円払うと言っても健は蜻蛉玉を手放そうとはしない。
そこで俺は最後の手段に出た。体育の時間で教室に誰も居ない間に、健のランドセルから蜻蛉玉を取って、どこかに隠すことにしたのだ。
次の体育の時間に俺はさっそく実行に移し、そして見事、誰にもバレない内に蜻蛉玉を取り外すことが出来た。
ああ、俺の手の中にこの綺麗な蜻蛉玉がある。間近でじっくりと見ると、本物の宇宙が本当にガラスの中に入っているようだ。心なしか、それがどんどん広がってきている気がする。
あれ、なんだ? なんだか身体が蜻蛉玉に引っ張られるような、大きな宇宙が目の前に広がって、俺がそれに吸い込まれて──
某月某日。市立の小学校の体育の時間に一人の生徒が行方不明になった。教室に一人で残っていたのをクラスメイトが見たのが最後で、今でも捜索が続けられている。
警察に話を聞かれたクラスメイトのランドセルには、綺麗な蜻蛉玉が光を反射しながら揺れていた。
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