2024.08.06──朱い器と夜の雨
馴染みの骨董屋に変わった商品が売られていた。
朱塗りの光沢のある器のように見えるが、一方が尖っている変わった形状をしており、太陽に掲げると反対側が透け見える。陶器でないことは明白だが、ガラスにしては軽く、プラスチックにしては固く頑丈である。
私はその器に興味が湧いた。何処で作られたかも何時作られたかも不明であり、タダ同然の値段で購入することが出来た。骨董屋の親父も厄介払いが出来て清々したといった顔だった。
その器を家に飾ってからのことである。
夜になると、家の周囲で連日大雨が降るようになった。最初は季節的なことからだと思ったが、それが実に二週間以上も続き、川から程遠い近所に洪水警報が出されるまでになった。
これは最早、無関係とは言えないだろう。意を決した私は、朱い器を手に雨降る夜の暗がりへと飛び出して行った。
豪雨は、まるで私を狙っているかのようだ。視界を奪われ、足も覚束なくなりながらも、私は手にした朱い器を天に向かって大きく掲げた。
それは一瞬の出来事だった。
あれ程分厚かった黒い雲が大きく広がり、そこに大量の朱い器が見えた。
否。器ではない。
それは、朱い鱗で覆われた、鰐のような顔付きの巨大な生き物だった。
その生き物は私が掲げた器に巨大な手を伸ばした。
次に目が覚めた時、あの分厚い雲は全て消え去っていて、空には満天の星が覗いていた。
そして私の手元からも、あの朱い器は消えて無くなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます